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ナルの夏休み エピソード1

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月曜日、転入生が来た・あたしのライバル







 アイドル育成の女学院「関東女学院」では、全寮制で規律が厳しい。当然、夜ふかしも禁じられている。一般教養のレベルが高い。偏差値が高い。勉強もできないとならないし、運動神経も体力も高くないといけない。どの学年でも欠員ができてしまうほど厳しい。

 まだ、6月。ダンス・ファッション科で欠員が2人でて、あたしが転入試験に合格した。特別な才能として作詞ができるし、ある程度、作曲もできる。そして、月曜日、あらたに転入生が入る。


「みなさん。今日は新しい友達が来ました。仲良くしてください」
 みんなどんな子が入るのか、たのしみにした。
 ドアがあき、転入生が入った。
「では、自己紹介を」
「私の名前は、石岡ひとみです。よろしく」
 立体的に見えるCGで歓迎された。

 教室の前方にある大型スクリーンに、石岡さんの名前が表示された。
「では、後ろの席、左側から3番目の席があいているでしょう。そこに座ってください」
「はい」
 やや茶色い髪。とても長い髪。校則ではギリギリの長さ。
「石岡さんも、社会問題に関心があるので、柏原さんと気が合うかもしれません。それでは、私たちのクラスのことについて説明いたします」
 南先生は大型スクリーンにクラスのシステムをわかりやすく説明している。
「このクラスは定員は21名まで。で、二つのチームがあります。さらに3つのユニットが組まされています。3人で強い結束が必要です」
「先生。なんで、21人ですか」
「それは、みんなの結束を強めるために、どちらのチームに入らない3人が必要です。今は柏原さんと田中さんです。今日、転入した石岡さんも、どちらのチームにもユニットにも所属していません」
「では、何の意味があるのですか」
「だから、みんなの結束を強めるためです。二つのチームが互いにライバルとして競争させます。一人だけどんなに優秀でもダメです」
「では、3人で仲良くユニットで活動しないとダメなんですね」
「そうです」
「で、あえて個性が強い子。または、目的意識が異なる子をわざと入れました。でも、決してイジメとか傷つけることをしないでください」
「はい」
 あたしが、この学院に入ったのは、別にアイドルになるつもりではなかった。他にもアイドルになるために入りたかった子もたくさんいた。
「柏原さん。田中さん、特別扱いはしません。柏原さん、何か言いたいことありますか」
「あたしアイドルが歌う歌詞にメッセージ性がないと思います。あたしは歌で世界を良くしたい。ただ楽しいだけ、みんながダンスするだけでは満足できないのです」
 その時、あたしに敵意をもつお嬢さんの大沢多恵が、あたしの顔をみつめる。
「大沢さん。どうしたのですか」
「いいえ。何もありません。別にメッセージ性がなくてもいいのではないでしょうか。みんながハッピーになれれば、私はそれで十分ですから」
「他に意見は」
 南先生が訪ねた。
「先生、みなさん。これからも、よろしくお願いします」
「よろしく」
 クラス全員が言う。

 転入生の石岡ひろみが自分の意見を言う。
「私も、柏原さんの意見に賛成です。みんな平和ボケしています。それに世界を見れば、まだ数世紀も貧困や圧政、因習で苦しんでいる人たちがたくさんいます。それなにに、お金がかかる宇宙開発に夢を見る人たちもいる。アイドルとかローラーボールという危ない格闘技で憂さ晴らししている。私はアイドルで夢を与えるのも大事ですけど、もっとみんな社会に目を向けて欲しいです」
 みんなの拍手があった。



 あたしも自分の意見を主張した。
「あたしも歌で世界を変えたいです。今の大人たちは腐っています。目覚めて欲しいです」
 大金持ちの娘、大沢多恵が、あたしに反論する。
「ねえ、そんな簡単に歌だけで世界が変えられたら、苦労ないわ」
 大沢多恵の意見も正しいかもしれない。あたしは多恵に反論した。
「そう思うわ。だから大人たちに目覚めて欲しいの。だって歌には力があるから。あたし、みんなでダンスして歌うだけではダメだと思うの。ちゃんとしたメッセージがある歌を歌わないと」
 多恵は興奮して強い口調で言う。
「なんで、あんたはこの学院に入ったの。他にもアイドルになりたい子がいるのに。他の音楽学校に入ればよかったじゃない」
「まあ、まあ。二人とも仲良くしてください」
 担任の南先生は大型スクリーンの表示を変えた。
「こんなこともあると予測しました。意見が異なる人を、わざと入れました。忍耐も必要なんです。自分と違った意見も必要なんです。それで、チームの結束が強くなればいいのです」
「でも、一人だけ優秀でもダメなんですか。一人だけどんなに頑張っても」
「そうです。あくまでも忍耐と協調性が大事です。それから、夏休みに宇宙旅行に行ってもらいます。地上3万5千キロにある静止衛星都市まで往復2週間です。希望者だけです。なお宇宙には危険もあり、謎の病気も発生します」
「先生、宇宙に行くにはどれだけお金がかかるのですか」
「旅費はひとり700万円です」
「それだけのお金があれば、開発途上国の人たちに」
「それがダメなんですよ」
 南先生はスクリーンで世界経済の実態を説明した。
「そうゆうことで、いくら私たちが善意があっても、途中でマフィアやテロリストに持っていかれるのです。物資を必要としている人には、何もわたらないのです。それでも、そのような地域で貢献したい人がいれば、大歓迎です」
 みんなはざわざわと雑談した。
「静かに。それでは、今後のスケジュールを説明します」

 このクラスは21人という中途半端な数字になっている理由がわかった。あたしは、歌で社会を変えようと思う。