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秋風のイト

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わたしは人間で
あの人も人間で
この人も人間で
みんな人間で
人間が作り上げた社会で
人間が作り上げる
イトのからまりだったり
ほつれだったり
あみあみだったり
どこに行ってよくて
どこに行ってはだめなのか
危険区域はあるのかないのか
どの道が最短ルートなのか
迷子になりやすいほど曲がり角が多い裏道とか
だれかが作りこんだ古い秘密基地とか
長すぎて
からまりそうで
むしゃくしゃで
どこがスタート地点なのか
もうわからないし忘れた
イトを
いっそのこと
はさみでジョギジョギ切ってしまえれば
手で引きちぎってしまえれば
たくさんのスタート地点を作ってしまえれば
いい


けれど
はさみで切るまえに
手で引きちぎるまえに
たくさんのスタート地点が生まれるまえに
ふと
考えてしまう。
くるくると
秋の風にのって
しゅっとすぎ去る
落ち葉のように
つめたくて執着のない
鮮やかでまとわりつかない
情のない、情があふれる情でできた想い出。

その瞬間
はさみを置いて
手を休めて
そっとイトを見つめる
そっとイトに手をおく
そっとイトに
「まだ冷めないの」と声をかける。
その度にイトは
ふふっと
落ち葉をかきあつめて作った焼きいもの
ほっこりしたほくほくのゆげのように
笑い返すんだ。

作品名:秋風のイト 作家名:川瀬詩奈