ナルの夏休み エピソード0-0
悪人の死後の世界とは、暗黒の場所。悪霊たちが住む世界かもしれない。それを地獄と呼ぶ。キリスト教で言えば永遠の刑罰と呼ぶ。
幽霊=地獄からの使いと考えられるから、人は幽霊を見ると怖く感じる。
だから暗闇を恐れる。
自分が死んだあと天国に行きたい。だから正しい生活をしようと潜在的に考える。それが人格に影響を与える。すなわち良い人になる。
臨死体験とは肉体から魂が抜け出した状態。
暗闇につつまれた墓場を歩いても恐ろしく感じないのは、周囲に天使に守られていると考えるから怖くないが、人は神様のことを忘れると死を恐る。
天使と悪霊の存在、これは永遠の謎。どんなに科学が進歩しても解明できないだろう。それと同じことが幽体離脱。
「脳の側面に電気的な刺激を与えると、自分の体から自分の意識が抜き出す現象を体験します」
「それを幽体離脱というの」
「そうです。でも、数世紀たっても、このことについては謎なんです」
「幽体離脱したことがあるのですか」
「電脳化すれば、あるプログラムを使えば幽体離脱できます。それを体験すれば肉体的な価値観よりも、精神的な価値観に重きを置くようになります。でも、特定の宗教に依存しないから、臨死体験や幽体離脱をしても他の宗教に改宗することはほとんどありません。無神論の人がキリスト教や仏教に改宗したという事例はほとんどありません。ただ人格がとても穏やかで優しくなります」
私はコンタクトレンズ型のコンピューターを外したことを忘れた。
「あら、コンピューターを目にはめこんでいるのね」
なんで南先生がそれがコンタクトレンズ状のコンピューターを付けぱなしにしていることを事前に予知した。南先生は、私の瞳を見た。南先生もコンタクトレンズ状のコンピューターをつける。
「ねえ、私もつきあうから」
そして、目をつぶった。誰かに殺される瞬間が立体的に見える。楽しそうな表情、邪悪な顔つきの若い男性たちに押さえつけられ、刃物を握っている手が見える。そして、これから殺されようとする人が目をつぶると何も見えない。「おちついて。では、この人の過去に遡ります」
南先生は電脳化しているので、クラウドに保存それている悪人たちの思い出にアクセスした。
「南さん、雪が多いのが見えます。空が曇っています。夜中みたいです。近くに空港が見えます」
「それは学園都市なの」
「そうですか。ガラが悪そうな男の人たちが見えます」
「ねえ、右下に日付が記入しているでしょう」
「いまから30年前と5ヶ月4日前の夜中です」
「それから手にウイスキーのビンを持つわ」
「ビンを持っている人たちの手が見えます」
「何か頭に強い衝撃を受けて。目の前に星のようなものが見える。それから走馬灯が見えます。目の前が真っ暗になりました」
「そう。これが悪人の思い出に、はじめてアクセスしたの」
「これは人間の思い出なの」
「そうなの」
悪人の心とは、とても愉快なことの連続。いじめをして相手が悲しい顔をすれば快感になる。脳内に強い刺激を受け幸福物質が生成される。
脳がそれを学習する。そして、気がついたとき、重度の統合失調症になる。幻覚が見えるようになる。そして、さらに快感を求め覚せい剤をもとめるようになる。
それから空港で飛行機に乗せられるところが見える。とても大きな飛行機。エンジンが4機ある。一度に数百人が乗れる。
私の目には中東の都市の風景が見える。クラウドから地図の情報がおくられる。右の片隅に中東のどの地域にいるのか解る。
さらに記憶をすすめると、人を殺そうするところが見える。片手に刃物を持っているのが見える。それを見たスカーフをかぶった女性が怯えている。恐怖でひきつっている。女性や子供を刃物で切り刻もうとするところで突然、映像が見えなくなった。
「やめましょう。この映像を見たらトラウマになるわ」
「そう思うわ。最後はとても怖かった」
「でも、鮮明が画像が見られたわね。コンタクトレンズ状の端末を外して」
「はい」
私は目薬でコンタクトレンズ状のコンピューターを外して、コンタクトレンズを入れる容器に入れた。
「戸松さん。まだ多感な12歳だから、知らないほうがいいことがたくさんあるの。いまの風景は年齢制限がかかる。自動的に見えなくなるのよ。アクセスを拒否されるの」
「で、南さんは影響されないのですか」
「影響されないわ。悪人の最後はみんな悲惨だから。とても恐ろしいところいいくから。選択を間違えないように」
私は今後一切、悪いことをしないように自分に言い聞かせた。
エピソード0‐Aに、つづく。
作品名:ナルの夏休み エピソード0-0 作家名:こーぎープリッド