真・平和立国
戦闘機については「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」で従来よりも1個飛行隊多い戦闘機部隊13個と定められていた枠がさらに拡大され、戦闘機部隊14個を配備することとなった。一挙に2個飛行隊の増加となったが制服組としては、手放しで喜び勇んでいる訳にもいかなかった。即応性を求められているという任務の性質と、早急に世界での新しい立ち位置を確立したい内閣の思惑があり、至急2個飛行隊を編成することを要求された。第10航空団の任務の性質上、対空・対地・対艦戦闘が可能な航空機が求められる。これにはF−2とF−4EJ改が適しているが、F−4戦闘機は、ファントム2と呼ばれシリーズ全体で5,000機以上が生産され、かつて西側のベストセラー戦闘機と呼ばれ各地で活躍していたが、初飛行から50年以上が経過し、今は退役が進み、使用しているのは日本、韓国など数カ国に過ぎない。それでも使われ続けているのは、現代でも速度、航続距離、武器の搭載量で新鋭機に引けをとらないからであり、日本やイスラエル、トルコなどでは時代遅れとなった電子機器や装備を新たにした改良を施し、俗に言う「スーパーファントム」として運用してきた経緯がある。ちなみに日本ではF−4EJにF−16用のレーダーの改造型APG−66Jを搭載、F−15Jの誘導指令装置やF−2と同じ国産対艦ミサイルをの搭載能力を付与した他、様々な近代化を施しF−4EJ改に進化させたが、寄せる月日には勝てず機体自体の老朽化もあり、F−35と置き換え予定であることは、ニュースや新聞で世間に広く知れ渡っている。
まだまだ使えると考えている人々も多い中で、一般に知られているFー4EJ 改は、退役間近の旧式戦闘機なのである。これを海外派遣に出すのはどうか、という意見が政府でも多数を占めたのは言うまでもなかった。しかもF−4は復座型、つまり前席、後席のある2人乗りの戦闘機であり、前席が操縦を担当し、後席は各種兵装や航法、レーダーを担当する。単に飛行するだけならば、前席の1人だけで可能だが、戦闘機としての能力を発揮するためには後席も欠くことはできない。前席、後席ともパイロットの資格を持つ隊員で構成されているF−4EJ改は、1人乗りの単座型戦闘機F−2Aの2倍の要員を必要とする。
こうした理由で、第10航空団にはF−2を配備することになったが、そもそも対地・対艦攻撃を任務の特徴としていたF−2戦闘機、どこからどう見ても戦闘爆撃機や戦闘攻撃機だが、何に配慮してか数年前までは遠慮がちに「支援戦闘機」と呼ばれていたこのジャンルの飛行隊は3つしかない。このため2飛行隊分を追加で生産することとなったが、F−2の生産は、2011年9月に最終号機を納入して終了しているので、生産ラインを再度整備しなおすためには少なくとも半年を要する。さらにFー2製造に使用する多種多様な部品の納期まで含めると、さらに時間を要する。また2個飛行隊40機という調達機数の多さがこの問題に拍車を掛けた。そもそも戦闘機のように1機100億円前後の高額な支出を伴う装備は、数年を掛けて計画的に配備していくのが常である。しかも年度あたり数機、多くても10機程度である。
このような状況では少なくとも5年は掛かるという防衛省や自衛隊の見積もりに業を煮やすした内閣は、Fー2開発のベースとなった機体で、多くの国で多数が使用されているアメリカ製のFー16戦闘機を中古で掻き集めようというした。
パイロットや整備員などの要員や設備はFー2を使っているのだからFー16も飛ばせるだろう。という政府の提案を慌てて拒否した。
そもそも部隊の増設は機体があればいい、という金で解決できる問題ではないのだ。部隊を増やすということは、要員を増やすということだというのを政府は理解していない。パイロットや整備員は養成するものであって、すぐに増やせるものではない。
そんな連中が大事な集団的自衛権について変革を起こしたことへの危うさに嘆く幕僚が多いことを危惧した防衛省閣僚は、このような政府案があったことを口外しないように箝口令(かんこうれい)を敷いた。こんなことがマスコミに知れたら軍国主義化として叩かれるだけでなく、その用兵に対する無知さを評論家はもとより、野党から批判されることは火を見るより明らかだからだ。
このような経緯を経て自衛隊は代案として現有のFー2飛行隊3個のうち2個を第10航空団に配備することを提案した。その提案は実行部隊の編成を急ぐ政府にとっては朗報だったが、前回の提案の反省もあって防衛官僚に釘を刺されていた内閣は、この朗報に、はしゃぐことは控えた。防衛官僚は、2個飛行隊を第10航空団に転属させることで空く防空の穴をどう塞ぐかを、慎重に検討すべきだ。と、航空幕僚長から聞いた言葉をそのまま伝えた。
この言葉に危機感を認識した政府は、5ヶ年計画でFー2飛行隊を2個新設することを条件として受け入れる代わりに、新たな飛行隊が配備されるまでの間は航空自衛隊が提案した「自らが粉骨砕身しなければならない苦肉の策」を実行してもらうことで合意した。
その航空自衛隊の苦肉の策とは、防空の他に対地・対艦任務もこなすFー2飛行隊を2個、第10飛行隊に「差し出す」代わりに旧式だが防空・対地・対艦攻撃能力を持つFー4EJ 改飛行隊2個をFー2の穴埋めにあてるというものだった。第10飛行隊に「差し出す」Fー2飛行隊は青森県 三沢基地の第3航空団所属の第3飛行隊及び第8飛行隊とした。福岡県 築城基地の第8航空団に配備している第6飛行隊のFー2は中国、北朝鮮などの動向に配慮して、対象とはしなかった。
現在航空自衛隊のFー4EJ 改飛行隊は第301飛行隊と第302飛行隊の2個飛行隊のみである、よって、その全てをFー2の代打として青森県三沢基地のFー2飛行隊と交代させることになる。これは、北方を軽視している訳ではなく北海道の千歳基地にはFー15Jを2個飛行隊配備していることを防空の担保としていることもある、また、Fー1戦闘機からFー2戦闘機に移行する際の穴埋めとして一時的にFー4EJ 改を配備していた時期があり前代未聞という状況ではなかった。しかし戦力の減少は避けることができず、それを敢えてやるということは苦渋の決断ではある。ただし、苦渋の決断と彼らが呼んでいたのはこの程度のことではなかった。それは2個飛行隊が抜けたことによる防空の穴の埋めかた、である。
この穴埋めは、単純には行かなかった。
「無いものは出せない。」
という至極真っ当な意見が多数を占める議論の中で、単に装備する機体の性能とパイロットの技能に目をつけたのは、パイロット畑出身の航空幕僚長、加藤健二空将だった。