はずれー(双子と三つ子)
友人は、笑顔で近づきました。
私は、三つ子の1人の名前を口にします。
「…多美ちゃん」
「はずれー 私、奈美」
無言で見つめる私。
友人の声が小さくなります。
「じゃ、じゃあ…佐美」
「自分が誰なのかを、『じゃあ』で決めたらダメよ?」
上目遣いで、多美ちゃんは私を見ました。
「佳奈には…私達3人の見分け、付くんだ。」
「うーん。そっくりさんだから、多分見た目だけでは…判んない かなぁ」
「?」
「キャラで…識別 してる。」
「…え?」
訝しむ多美ちゃんに、私は微笑みます。
「例えば…奈美ちゃんと佐美ちゃんは…こういう事しないでしょ?」
拗ねて そっぽを向く多美ちゃん。
その頬を、私は軽く指で突きます。
「黙っていられたら…多分、判んないと思うけど。」
「…そうか!」
多美ちゃんは、何かを閃いたの様に、虚空を見つめました。
重要事項を確認するかの様に、ブツブツ言い始めます。
微かに私の耳に届く「…なるべく、喋らない様にしないと」の呟き。
「まさか多美ちゃん、次は 見分けられない様にしようとか…」
「─ 考えてる。」
無意識の私の右手の指が、自分の額を押さえます。
「聞いても…良い かな?」
「ん? 」
「…何で、見分けられない努力なんか…する訳?」
「あんまり簡単に見分けられると…何か悔しいんだよね。」
「はぁ…!?」
「三つ子の1人としての、アイデンティティの問題!!」
「ア、アイデンティティ?」
熱くなった多美ちゃんは、私に顔を近づけました。
「『そっくりで見分け付かないっ』て言われてこそ、三つ子だと思うんだ!」
勢いに押された私は、数歩後退します。
「ごめん。三つ子の経験のない私には…良く判らないかも。。。」
作品名:はずれー(双子と三つ子) 作家名:紀之介