Scat Back 第二部
少し気が楽になった。
「私も残念、最後の最後にみんなのサポートが出来なくって」
「そんな事ないさ、由佳が見てくれているだけでも力になったよ」
「勝利の女神にはなれなかったけどね」
「みんなの所へ行きたいだろう?」
「ええ、車椅子、押してもらえる?」
「いや、立ち上がれるか?」
「それくらいなら」
「だったら立ち上がってくれよ、手伝ってやるから」
「うん」
由佳が俺の手に掴まってよろよろと立ち上がると、俺は由佳を抱き上げた、念願のお姫様抱っこだ。
「大丈夫? 重くない?」
「こう見えてもフットボーラーなんだぜ」
「うふふ……お姫様抱っこしてもらうのって初めて」
「そうか? 初お姫様抱っこの相手が俺でも良かったか?」
「あのね、本当は一年生の頃から鷲尾君が……」
その後の言葉は駆け寄って来た仲間たちの声にかき消されてしまった。
まぁ、いいさ、いずれ改めて聞かせてもらうから……。
1年後、東山と田中を中心としたブレイブ・ブラザースは、再び2部リーグを制し、入れ替え戦にも勝利して1部リーグ昇格を決めた。
優勝がかかる試合、昇格がかかる試合と、神経がピリピリするような試合をいくつも経験した後輩たちは一回りもニ回りも成長していたのだ。
その祝勝会に出席した俺は、会場に飾られていたウイニングボールを飽かずに眺めていた。
「おい、それ借りてちょっと来いよ」
相変わらずぶっきらぼうな口調は山本だ。
「来いって、どこにだよ」
「そうだな……廊下でいいか……」
「何するんだ?」
「いいからここで待ってろ……よし、そのボールを抱えてここまで走れよ」
「何だ?」
「あの時お前が走り切るはずだった30ヤードさ」
山本は不器用きわまるウインクを俺に投げかける。
そしていつのまにか、山本の隣には由佳も立っている。
「なるほど、そうか……よし、行くぞ」
「遅い、遅いぞ! 見る影もないじゃないか」
「本気で走ってるのかしら?」
「何とでも言え、革靴にコンクリ床でまともに走れるかよ」
「それもそうだが……ははは、それにしても遅過ぎだ」
「30ヤードに1年かかっちゃったものね」
「確かにな」
「でも走り切ったな」
「ええ、走りきれたわね」
「ああ、走り切れたよ」
その瞬間……あの時の悔しさは溶けて行った。
しかし、全力を尽くさずに2年余りもくすぶっていたことへの後悔は消えていない。
いや、それはむしろ一生忘れてはいけない……そしてこの場に集った仲間たちはそれに気づかせてくれた大切な仲間たちなのだ。
そして、それを一番しつこく言い続けてくれたのは由佳だ。
「ありがとうな」
俺は一部始終を見ていた東山と田中にウイニングボールを手渡し、山本にウインクを送った。
山本の不器用きわまるウインクよりも遥かにスマートなやつをね。
そして、もちろん由佳にも……。
本当はキスしたいところだけど、さすがにみんなの前じゃちょっとね……。
完
作品名:Scat Back 第二部 作家名:ST