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てっしゅう
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「空蝉の恋」 第二十九話

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「ええ?そんなこと言われたのは初めてです」

「高校から行かれたのでしょう?」

「はい、そうです」

「ならお嬢さんですよ。貧乏人では行けません。それに頭もよくないとね」

「それは偏見だと思いますけど」

「ご謙遜を。しかし、あなたのようなお嬢さんで綺麗な方とお知り合いになれてボクは嬉しいです。仕事先へはこの後一緒に行きましょう?善は急げです」

「今からですか?」

「ええ、車を駐車場に停めていますから、30分ほどですよ」

私は洋子に電話だけして、星ヶ丘に行くことにした。
車内で佳樹さんにいろいろと聞かれた。まだ早いとは思ったけど、離婚のことを口にした。

「そうだったのですね。洋子さんから娘が聞いた話では離婚のことは無かったので、ちょっと驚きました。何と言って良いかわかりませんが、外に出てお仕事されれば気持ちが晴れると思います」

「ありがとうございます。こんな厚かましいことをお願いして何とお礼を言ったらよいかわかりません」

「いいんですよ、そんな気遣いされなくても。あなたとこうして接点が出来たことがボクには一番なんです。娘ともどもこれからもよろしくお願いします」

「はい、そう言って戴けると嬉しいです。佳樹さんにご迷惑が掛からないように働こうと思います」

「いいですね。前向きに頑張れるということが、佳恵さんを輝かせると思います」

佳樹には和仁や徳永のようなあからさまな誘惑心がなさそうに思えたけど、きっと私への好意で世話をしてくれるのだろうことは想像できた。
雇ってもらえるお店で少し店長さんとお話して、来月の一日から勤務することが決まった。時間は開店時間の10時から、午後5時まで。夕方からは店長が閉店まで勤務するので、その前の時間で頼まれた。

1人勤務している女性のパートさんと同じ時間で仕事をする。
佳樹は週に一回納品のために顔を出していた。
仕事には制服が無いので、目立たない白色のブラウスと、ひざ丈のグレーのスカートを買って、お店で着替えることにした。それは店長からの指示でもあった。
接客業のイロハを指導されて、言葉遣いと、身だしなみを第一に考えろと言われた。

バックルームで入荷した商品を箱から出し、値札を貼った。仕入れ伝票と現品を突き合わせて確認しながら注意深く貼ってゆく。補充と入れ替えが当面の仕事でもあった。

一月ほど経過して、ショップの店長から歓迎会をすると誘われ、そこには佳樹も加わることになっていた。