「空蝉の恋」 第二十六話
暫くして恵美子から電話が掛かってきた。こんな時間だと思ったが、出ることにした。
「はい、どうしたの?こんな時間に」
「佳恵さん、和仁さんから聞いたわよ。離婚するんだって!」
「夫から、離婚した方が良いんじゃないのか、って言われただけなのよ。私は自分からしたいとは言わなかったし、和仁さんと居るところを夫の知り合いに見られたので、ほら私が一人の男性から見つめられているっていったあの人の事。それで問い詰められたのよ」
「そうだったの。でも混浴のお風呂に入っていただけでそこまで言われるのは心外よね」
「夫に報告した人がきっと余計なことまで言ったのかも知れない」
「余計な事?」
「二人で泊まっているとかね」
「ひょっとして、私が寝ている時に和仁と外にでも出た?」
「うん、風に当たりたいと思って庭に出た」
「和仁と抱き合ったりしなかったの?まさかそれ見られたとしたら大変よ」
「そんなこと・・・してないわよ」
「本当ね?ならいいんだけど」
私は本当のことが言えなかった。
和仁が恵美子に話していなかったから、黙っていればわからない。
電話を切って寝ようとしたら、洋子がノックして入って来た。
「ママ、和仁さんと電話していたの?」
「違うよ。恵美子さんと話していたの」
「でも、和仁さんとのことで話していたのでしょう?」
「うん、離婚話があると伝えたの」
「和仁さんのことが好きなの、ママは?」
「何を言うの!お友達なのよ」
「私に言えないことがまだあるんじゃないの?別にいいけど、パパのことなんか気にしなくていいと思うよ。前にも言ったけど。この頃のママは、なんか隠しているって感じられる」
「洋子、隠していることなんて何もないのよ。和仁さんとは恵美子さんを通してのお付き合いだし、徳永さんもテニスコーチとしてのお付き合いだけ。斎藤さんも優華ちゃんとあなたとのお付き合いが無かったら、連絡なんてすることが無い人よ」
「こんなことを言うと怒られるかも知れないけど、ママは女として充実して欲しいと思うの。私は好きな彼が出来たら飛び込んで行く。まだ経験が無いからちょっと怖いけど、後々を考えながら恋愛相手を探しても意味ないし、つまらない恋愛ならしない方がましよ。節度は必要なんでしょうけど、仲良くならないと解らないこともあるような気がする」
洋子が言った恋愛観は解らないでもない。
しかし、自分は夫がある身。離婚が成立してから行動すべきと洋子に返事をした。
作品名:「空蝉の恋」 第二十六話 作家名:てっしゅう