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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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約束

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大竹は谷津が住んでいた家に来ることが喜びであったが、いつになっても彼女の消息がつかめないことが不安でもあった。大竹の目的は谷津との約束をかなえることだからであった。それが近所の住人たちとの交流が深まり、東京では味わえなかった人情を感じ始めていた。大竹は今だに旅行のお土産と言って菓子などを届けることに、子供のころに味わった懐かしさを感じた。お返しをしなくてはと考えると煩わしい、そう思う現代人が多いかもしれないが、大竹はこの付き合いは大切にしなくてはならないと考えていた。
 谷津が大竹を呼び寄せたのは、谷津は住人たちを守りたかったのかもしれないと大竹は考え始めた。そして谷津愛はすでにこの世には存在しないように思えてきた。
 『退職したら戻ってきます』谷津は来るたびにそう言っていた。谷津が姿を見せなくなって6年になった。谷津は自分の命の短いことを知っていた。谷津は住人たちとの約束を果たしたかった。そしてかなえてほしかった大竹との約束。大竹ならきっと、住人たちの面倒を見てくれる。谷津はそう確信した。
 約束は守りたい。守れなかった約束は心の底に沈んでいる。
作品名:約束 作家名:吉葉ひろし