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「六十四丁目の仕事お前引き受けるんだって?」トーマスは言った。
「ああ、あんな日給の高いハウスキーパーないからな。なんか裏でもあるかって疑うよ」メイソンは作業着を脱ぎながら言った。
「六十四丁目の仕事、相手はばあさんだろ?評判知っているか?」
「何だよ?」
「あのばあさん昔はモデルだったらしいぜ。なんかヌードモデルもやってたらしくて、昔じゃヌードモデルは珍しかったからな。お前そういうこと気にしないのか?」
「別にばあさんがヌードをやるわけじゃないだろ。ばあさんが若かった頃にヌードをやってただけって話で……」
「じゃあな……幸運を祈る」トーマスはメイソンの言葉を遮るようにそう言った。
 次の日メイソンはシャロン・ミラー邸のドアをノックした。
「失礼します。ミラーさん。電話したメイソン・ウイリアムズです。いらっしゃいますか?」
 少し時間が経ってドアが開き老婦人が車椅子に乗って現れた。
 黒人の若い男が車椅子を押している。老婦人のシャロン・ミラーはしばらくメイソンの目を見ている。そして言った。
「あなたがメイソンね。あがって」
「履歴書はいらないって聞いてたから持ってこなかった。単刀直入に聞く。俺は雇われるのか雇われないのか?金になる話ならいくらでもあるんだ。雇われないんだったら……」
「あなた我慢ていうものを知らないの?それが仕事を引き受ける人の態度ですか?」
「すいません」
「まあいい。明日から来てくれる?このフレッドは明日からもうここには来ないの。代わりにあなたが私の車椅子を押して、あと私の施設も手伝ってもらいます。その他もろもろ」
「施設?」
「そうです。子供達の施設です。私の施設の子供は皆知的障がいがあります。その子達の面倒を看るのも仕事の一つです。十名程の小規模の施設ですからすぐに慣れるでしょう。奥の離れたところに子供達がいます」
 そしてメイソンはミラー邸から離れた。
「ちっ?話が上手いと思ったぜ。障がい者の子供の相手なんて重労働だろ。ここも長くないだろうな」
 次の日メイソンは九時に来るはずだったが、十分遅れてミラー邸に着いた。
「あなた、十分遅れているじゃないですか」シャロンは言った。
「子供達が集まるのが九時半て話だろ?今からでも間に合う」
「あなたにはその前に大切な仕事をしてもらう予定です」
「何だよ?大切な仕事って?」
「犬の散歩です」
「分かった。今日は手短に犬の散歩をする。それでいいだろ?」
「遅刻をしたことに罪の意識はないのですか?」
「犬の散歩くらいで罪って大袈裟だろ?じゃあ何で俺を雇ったんだよ。もっと育ちが良くて福祉の大学を出た奴とかケアギバーの資格を持った奴とか雇えば。何で俺を雇った?」
「私は学歴や資格を信じません。その人の目を信じます」
「目を信じる?」
 メイソンは犬の散歩に行った。
「本当変わったばあさんだぜ。ヌードモデルだったくせに、礼儀にうるさいばあさんだな。まったく」
 そしてメイソンは犬の散歩を終え、障がい者達が集まるホールに行った。シャロン婦人のしつけがいいから子供達は九時半まで大人しくしている。
 そしてホールに子供達が集まって、もうどんちゃん騒ぎになった。メイソンの服を引っぱるもの、また首を絞めるもの。
「おい。よせ、このガキ」
 天井を見ながらグルグル回るもの。
「おい。そんなにグルグル回ってたらどうにかなっちゃうぞ。お嬢ちゃん。よせったら。なあ、痛っ。おい、後ろから蹴るんじゃない」
 そしてメイソンの一日は終わり夕方六時になった。
「また明日も来てください。月曜から金曜まで来てくれれば、土日はボランティアの人が来てくれるので。そこの日誌を読んどいてね」

8/8アレクはおやつを食べません。ヨーグルトしか口にしません。冷蔵庫のヨーグルトが切れそうなので買ってきてください。来月の誕生日の子達をチェックしておいてください。

 次の日も次の日もメイソンは仕事に来て子供達の相手をした。歳月と共にメイソンは仕事を楽しんでいた。
 洋服をしゃぶる子。
 音楽に合わせて踊る子。
「お嬢ちゃん。なんて踊りだよ。カクン、カクンて人形みたいに踊るね」
「ニコロスがトイレで便をするとき必死に踏ん張る姿が何とも言えない。本当何とも言えないんだ。なあシャロン婦人」
「ねえ。可愛いでしょう。この子達は言わば皆私の子供です」
「アメリアは本当にアニメみたいな声を出す」「本当高い声ね」シャロン婦人は笑う。
「シャーロットはパズルのピースが見当たらないとすぐウソ泣きする。どうすりゃいいんだ。なあシャロン婦人?」
「泣き虫シャーロットはバツです。ニコニコシャーロットはマルです」
 そうシャーロットに婦人が言うと、シャーロットは泣き止んだ。
 そしてその日も日誌を読んで帰ることになった。日誌には

11/3フレッドが超合金のおもちゃを電子レンジに入れようとしていました。目を離したすきにキッチンに入ってしまうので子供達には目を離さないでください。この間のハローウィンの写真は皆に配りますがポスターカードに貼って渡してください。もちろん名前とメッセージも入れます。