私の結婚
そして当日がやってきた。とても気乗りのしないデート――雨でも降ってくれたら、仮病を使ってでも断ろうと思っていたが、生憎、抜けるような青空のデート日和だった。仕方なく支度を始めたが、異性に会うような気合など入らず、母とランチにでも行くようなノリで支度を終えた。
駅まで歩くのも、電車に乗るのもすべてが面倒だった。こんなにイヤならどうして断らなかったのだろう、と後悔しそうになるのを必死にこらえ、私は変わるんだ、変わらなければ、と自分に言い聞かせた。
駅を出て、階段を上り、西郷さんの銅像のところへやってきた。すると写真通りの純平が待っていた。小太りでいかにも人のよさそうな笑顔を浮かべ、こちらに近づいてくる。
やっぱり、無理……それが第一印象だった。でもここは大人になって、今日一日を乗り切ろうと心に決めた。
まずはお天気もいいので、少し散策することになった。桜の季節は人でごった返す上野の山も、今日は動物園へ向かう親子連れが行き交うくらいで、ゆったりとした時間が流れている。純平はつかず離れずの距離を保って歩き、退屈させない程度に話しかけてきた。そのためか、これといって不快な感じはしない。前を向いて歩いていれば、むしろ心地よい時間にさえ思える。
すると突然、小さな子どもが走ってきて私たちを抜き去ったかと思ったら、前の方で転び、泣き声をあげた。すかさず純平は駆け寄ると、自然な仕草で子どもを起こし、なだめ、駆けつけた親に渡した。そして、立ちすくむ私の元に戻り、
「甥っ子がいるんで慣れているんですよ」
と笑った。
お昼は、近くのお店に入った。混んでいてかなり待たされたが、純平はその時間を楽しい話題で上手につなぎ、私を退屈させなかった。そして、やっと食事を運んできた店員に対しても笑顔で接した。
午後からは動物園に入った。動物を見て歩く頃には、お互い慣れてきたので、冗談も出るようなった。
「ここなら、自分も男前に見えるんじゃありませんか?」
ゴリラの檻の前で純平が得意そうに言った。
「そうですね。素敵ですよ」
「よかった、動物園を選んだ意味がありましたよ」
純平はそう言って笑った。
今まで、その容姿から異性に敬遠されていたことは容易に想像がつく。それを卑下することもなく、屈託のない笑顔でやり過ごす純平がとても立派に見えた。それに引き替え私は、姉を羨み卑屈になって……
母の言葉がよみがえった。
『外見ではなく、どこか自分にはないいいところ、尊敬できるところを探してごらんなさい……』
家まで送ってもらって、デートは完了した。
とても不思議な一日だった。
最初、銅像の前で見た純平と、今日一日、一緒に過ごして別れる時の純平はまるで別人のように思える。二度と会うのはご免だと思った人が、半日でまた会ってみてもいいかな、と思う人に変わっていた。容姿さえも違うように感じる。私は魔法にでもかけられたのだろうか?