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盗賊王の花嫁―女神の玉座4―

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 漓瑞が質問すると、現状見つかっていない盗品の名目が記された紙が回ってくる。
「壷に皿に、花瓶に水瓶、水差しまであるのか。つーか、どれも相当値の張る代物なんですか?」
 この国の貨幣価値がいまひとつわからず黒羽は首を傾げる。
「一番安い水差しでそうですね、夫婦ふたりなら一年は食うに困らないぐらいにはなります。女神様由来の物は御利益があるということで高値で取引されていますね。監理局も多く保持していますが、ここは国の中枢を流れる運河を中心にして女神様との交流があったという話ですから、多く残っているのでしょう」
 紙を回してきた局員の解説に黒羽はなるほどとうなずく。やはり場所が違えば神の様相も異なるらしい。
「これだけ値が張ると安易に売却はできないのでしょうが、ひとつも出ていないのは奇妙ですね」
 漓瑞が腕を組んで考え込む。
「その辺りはやつらをしょっぴいて聞き出すしかないですね。奴らの潜伏先の候補が五つほどありまして、今、様子を窺っているところなので動きがありしだいご協力お願いします」
 アマンが告げることはつまりは待機ということで、黒羽はここまで来てまた大人しく待っていなければならないことに少々がっかりした。
「今、できることであたしらが手伝えることってないですか?」
 だが何かやることはあるはずだと問うと、一瞬場が静まりかえった。
「……すみません、大変失礼ですがそちらの黒羽さんは女性ですか?」
 とても聞きづらそうにアマンが黒羽を見やって聞いてくるのに。まだ性別を告げてなかったことを黒羽は思い出す。
「すんません。紛らわしい見た目ですけど女です」
 もうこれで何度目だろうか。勘違いされることは仕方ないが、行く先々で性別も申告せねばならないのは面倒である。
(もう、どっちでもいいんじゃねえかなあ)
 女扱いして欲しいと思ったことは一度もないので、全く気にしないのだが周りの人間にはどうでもよくないとは窘められている。
 何も知らない女性が勘違いして一目惚れしてしまったら可哀相だということらしい。
「いや、本当に、すいません。ああ、まだ細かい資料も沢山あるので目を通していただけると助かります。見廻りするにおふたりは少々目立つでしょう」
 苦手な資料の読み込みという作業に黒羽はうなだれつつ、他の局員達が見廻りに出た後漓瑞とふたりでこのまま部屋であれこれ読み物を続けることになったのだった。

***

「……漓瑞、あたしはもう駄目だ後は頼む」
 会議から二刻程経つ頃、黒羽は捜査資料の山の前でついに力尽きた。
「もう少し頑張りなさい。あなたはこういうことも多少はできるようにならないと」
「いや、でも、前よりは頑張ってるぜ。しかし、魔族監理課の事務仕事はあたしには絶対無理だ。妖魔監理課にとってもらえてよかった」
 妖魔監理課も報告書の作成はあるがこれほど膨大になることはない。文字を読むのも書くのも苦手な黒羽は、机の上に全て積み重ねると自分の目の高さまで届きそうな山がふたつはできそうな資料を目にしただけで逃げ出したくなった。
「これだけの資料があるのは魔族監理課でも珍しいですよ。件数が多いのもあるでしょうが、几帳面ですね」
 元魔族監理課の漓瑞が黒羽の倍近くを読み込み感心する。
「なんかここまで読んで気づいたことあるか? あたしはかなり頭に入んなくなってんだけどよ、規模の大きい盗難事件だよなあ」
「ええ。目録や被害地域を見ても広範囲にわたっているとしか……」
 漓瑞も女神に関すると思われる情報を見つけられていないらしかった。
「お前が気付ねえってなると、難しいな。こういうのはグリフィスがいたらなあ」
 女神がいた頃の世界を旧世界と呼び、その頃の道を自由に使う青年の助けが欲しくなってくる。
「骨董にも詳しそうですから、協力を仰げれば確かに進展はあるでしょうが彼とアデルの繋がりもまだ未知の部分がありますから。それに、彼にも果たすべきことがあります」
「皇帝陛下、だもんな」
 漓瑞が声を潜めるのに、黒羽も小声で応じる。
 グリフィスは北大陸一の版図を誇るレイザス帝国皇帝でもある。今は政務が立て込んでいて国元を離れられないということだ。
「この先も私達だけで動かねばならないことが増えるでしょう。自分達でできることを増やしていかねばなりません。しかし、この捜査資料ばかり見ていてもあまり有益なものは見つかりそうにないですね」
「だったら、この辺で切り上げようぜ……」
 まだ多分に残っている書類の山を処理して収穫なしではたまらない。
「女神にまつわる話を先に聞きましょうか。タナトムと同じ聖地の警備係があると藍李さんが言っていましたね」
 人が立ち入れる場所に聖地がある場合、みだりに人が立ち入らないために警備係が置かれるのだ。
「石以外何にもないとも言ってたな。日蝕もグリフィスの話だとないっていうからなあ」
 この王国の聖地は川辺の大きな岩の塊の周囲だという。そして聖地の異変は日蝕の時だった。
「その石が旧い神の墓標という可能性もありますね。聖地周辺で気になったことを訊ねましょう。その後に残りにも目を通しますよ」
 にっこりと漓瑞が微笑んで、書類から逃げられると思った黒羽は無言でうなだれた。
 そして警備係の場所を支局員に問うと魔族管理課内の奥の方だという話だった。実際行ってみると小さな空間に局員がふたりだけいて、事務仕事をしているところだった。
「聖地ですか? 本当に川辺に卵をひっくり返したみたいな形の大きな石以外は特に何もないですよ。局員も係長の私を含めて五人だけです。雨期になると石全部と、周囲もほとんど川に沈んでしまうので見廻りをしつつ、魔族監理課の事務仕事の手伝いと平和です」
 警備係長の話を聞く限りだと、本当に何もなさそうだった。
「不審な人物が聖地の周辺をうろついている、あるいはほんの少しでもいつもと違うと気づいたことなどはありませんか?」
「いやあ、そういう報告は出ていませんね。正しき者が石に触れると願いが叶い、邪な者が触れれば罰をうけるという伝承が石にありまして、時々願掛けや度胸試しをする者はいますが……窃盗事件に関係あるのでしょうか。さすがにあの石は高さは人間の倍はありますし、魔族の怪力でもそうそう盗めないでしょう」
「ええ。それでは盗めませんね。他に伝承などはあるでしょうか? 女神への贈り物や、下賜された物。逸話などがあれば知りたいのですが」
 漓瑞がゆっくりと、しかし確実に欲しい情報を選んで問う姿をこういうことは苦手な黒羽はありがたく思いながら見守る。
「はあ。その昔、ここら一体は人々が争い多くの妖魔が跋扈していたそうです。それを女神様が雷にで撃ち払ってくださったのです。争っていた人々は女神に感謝し、多くの壷や瓶などを献上しました。そして、女神様は正しい行いをする者に献上品を下賜したのです」
「貰った物を他の誰かにあげたんですか?」
 それは贈った側はあまりいい気がしないのではないのだろうかと、黒羽は首を傾げる。
「ええ。贈り物に選ばれることが名誉だったそうです」
「そっか。いい物だから特別になのか……?」
 納得できる部分があるものの、腑に落ちない部分もあった。
作品名:盗賊王の花嫁―女神の玉座4― 作家名: