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あずまくも
あずまくも
novelistID. 63359
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おじいさんの大好きな車

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あるところに、車が大好きなおじいさんがいました。
車が大好きと言っても、

「あの車も、この車も、う~んこっちの車もいいなあ」って色んな車が好きなわけではありません。

1台の車がとっても大好きなおじいさんでした。

水色の小さな丸っこい車。
おじいさんが横に立つと、ひょいっと、簡単に頭が見えてしまう小さな車。

えっ?
どのくらい大好きかって?

なんと、初めてその車を買ってから60年。
ず~っとその車に乗っています。
そして、毎日毎日、きれいに磨いて乗っているのです。
毎日ですよ。
一日も休むことなく、ず~っとです。

そんなおじいさん。
今ではおばあさんも死んでしまい、一人ぼっち。
今日も車を磨いています。

「や~れ、今日も車を磨いてどこに行くかのう……」
車を磨き終わると、1人でドライブに行くのがおじいさんの日課です。
今日は海まで。
今日は山まで。
おばあさんが死んでしまってからは、毎日静かにおじいさんは一人で運転。
車が大好きなおじいさんですが、今ではちょっと寂しいドライブです。

でもね、実は今日はちょっと楽しみなんです。
なんと、今日走るとこの車、走った距離が100万キロを超えるんです。

100万キロってどのくらい?
おっほんっ!
えー、地球1周が約4万キロ。
ということは……
なんと!
地球約25周分!
すっ、凄い!
失礼しました……
とにかく、そんな凄い距離。

100万キロを超えるのが、おじいさんの密かなお楽しみ。
999999キロから、ちょっとソワソワしちゃいます。
変な笑いも出ちゃいます。
「しぇっしっしっしっし~」
「もう少し、もう少し」
「しぇっしっしっしっし~」

すると……

カチャ

ついに、100万キロになりました。

「お~、やったやった」
一緒に喜ぶ人もいませんが、おじいさんは嬉しそう。

見晴らしのよい丘の上に車をとめて休憩です。
おじいさんは車を降りて、つぶやいていました。

「やれやれ、ついに100万キロ走ったか」

「いや~こいつとは若い頃から、よく走ったな~」

「ばあさんともよく、乗った。はじめて出会った時も、結婚してからも、
馬鹿話をしたりケンカもしたけど、よ~く一緒にこいつに乗って色んな所に行ったなあ……」

おじいさんはありがとうを込めて、ポンポンっと軽く車を叩きました。
「よし、帰るか」
100万キロを超えた帰り道は、もっと寂しいドライブです。
「は~あ……」
と言いながら、おじいさんはエンジンをかけました。
ブルンッブルンブルン!
100万キロを超えても元気にエンジンがかかります。

すると、突然車のラジオのスイッチが入り、大きな音が鳴り響きました。

パンパカパンパンパーン!

「おめでとうございます!いやいや、おめでとうじゃないですね。有難うございます!あなたは、ついに100万キロを走らせてくださいました」
大きな音と一緒に、変な声も聞こえてきます。

「なんだ!? ラジオか?つけていないけどなあ、おかしいな」
おじいさんは不思議そうに、車のラジオのスイッチを切りました。

すると、また勝手にラジオのスイッチが入り、変な声が続きました。
「おじいさん、おじいさん、ちょっときらないでよ、せっかくお礼を言っているのに。僕ですよ僕、あなたが毎日磨いてくれた水色の車ですよ。く、る、ま」

「く く 車!?何を言っているんだ!?」

「も~う、知らないんですか?車は1人の人が、大事に100万キロ走ってくれると、話が出来るようになるんですよ」

「そっそんなこと、あるわけないだろ!?」

「そんなことって言ったって、本当の事。これ、車の世界の常識です」

「おじいさん、100万キロ走ったら、話が出来るようになるって、本当に知らなかったんですか?」

「そんなの知るわけないだろ!」
おじいさんは、ちょっと興奮しちゃっています。

車はあっけらかーんとして話します。
「そうなんですかぁ~?私はてっきり話がしたくて、100万キロまで私の事を大事にしてくれているんだと思っていましたよ」

おじいさんは、何が何だか分かりません。
「く、車が話すなんて、わしは悪い夢でもみているのか……」

「まあまあ、おじいさん落ち着いて。そうですね、こんな時は一曲どうですか?」

おじいさんは頭をかかえこんでいます。
「もう、やめてくれっ。わしは頭がおかしくなりそうじゃ」

「そう言わずに、こんな曲はどうです?」
車はおじいさんの話を聞きもせずに、車の中に音楽をひびかせました。
静かな、優しいメロディーです。
なんだか、懐かしいメロディーです。

そして、車は言いました。
「どうです?おじいさん落ち着きました?」

頭を抱えこんで、耳をふさいでいたおじいさんは、
ス~ッと入ってくる、メロディーに顔をあげました。
「これは……」

「おじいさんが、初めて私に乗ってくれた60年前の曲。むかーしの曲ですよ~。なつかしいでしょー?」

自然と色んな思い出が、おじいさんによみがえってきます。

「お次はこちらの曲はどうですか?」
今度は、明るいメロディーがひびきだしました。

「あぁ、ばあさんが若い頃好きだった曲だ……」
おじいさんはすっかり落ち着きを取り戻し、
そのなつかしいメロディーに耳を澄ませました。

すると、その時です。
メロディーと一緒に誰かの声が聞こえてきました。

「んっ?」
「おじいさん、どうしました?」
「おい、いま誰かの声が聞こえなかったか?」
「私の声でしょうか?」
「いや、君じゃない。ほら、静かに聞いてみてくれ」

おじいさんと、車は静かに耳を澄ませました。
あれあれ?確かに何だか声が聞こえます。
誰かと誰かの楽しそうな話し声。
車にもその話し声が聞こえました。

すると、車はなにごともなかったように言いました。
「ああ、おじいさんと死んだおばあさんの昔の話し声じゃないですか」

「わしとばあさんっ!?」
おじいさんは、思わず大きな声を出してしまいました。

車は言いました。
「そりゃそうですよ~。今まで、私の中で起こったことを、そのまま聞いてもらっているんですから」

おじいさんは、つばをゴクリと飲んで、聞きました。
「じゃあ、この声は若い頃のわしとばあさんか……?」

「ええ、お2人ともお若かったですね~」

おじいさんは落ち着いて、その楽しそうな話し声に耳を澄ましました。

「はっ、はっ、ばあさんこんな声だったけなあ?わしも、こんな声だったか?はっはっは」

車の中でひびきわたる、若い頃のおじいさんとおばあさんの楽しそうな話し声を聞いて、おじいさんは、久しぶりにとても幸せな気分になりました。

「どうです?おじいさん。昔の思い出を聞きながら、そろそろ、ドライブにでも行きませんか?」

「そうじゃのう、60年分の思い出を聞きながら、ばあさんに会いにでも行くか」

「お安い御用ですよ。なんてたって、私は100万キロを走った車ですから」

おじいさんと水色の丸っこい車は、100万キロを超えた、次の旅に走り出しましたとさ。

おしまい