「空蝉の恋」 第二十二話
「お前が浮気をしていると言ったんだよ」
「信じられないことを仰られないでください」
「知らないとでも思うのか!白骨温泉に男と行ってきたんだろう。偶然だったが知り合いがお前を見たと連絡してきた。ごまかせないぞ」
知り合いから連絡があった・・・それは、あの時私のことをじっと見ていた男性のことを言うのだろうか。
「どなたが私を見たと言われるのですか?」
「昔の会社の部下だったやつだよ。家族で長野に旅行していて、泡の湯へ立ち寄った時に露天風呂でお前を見つけたということだ」
「お会いしたことありませんわよ、その方とは」
「向こうは知っていたんだよ。なんでもお世辞に美人だから先輩が羨ましいとか言われていた。写真を見せたのかも知れないな。よく覚えていたから、余程お前のことが気に入ったのかも知れない。悪いことは出来ないものだ」
「人違いということもありますよ。見たとか言うだけで信じられるのなら仕方ありませんけどね」
「ほう、開き直る気か?」
「泡の湯に誰と居たのかも覚えているんだぞ。他の奴らまで偶然一致したと言わせるのか?」
これ以上は隠し通せないと思えてきた。
「たとえ一緒に行ったメンバーに男性がいたとしても、それが浮気相手だと言われては弁解もしたくありません。恵美子さんに誘われて四人で白骨に行ったことは確かです。私以外は三人とも長い友達で、迷いましたがあくまでお友達同士という気持ちで出かけましたのよ」
「なあ、おれたちこんな話をしているからにはもう一緒に居れないよな?」
「ええ?どういうことですか?」
「浮気している女とは一緒に暮らせないということだよ」
「離婚されたいということですか?」
「そう言うことだ。お前だってその方が良いだろう?」
私は急に夫から離婚話をされて心が動揺してしまった。しばらく黙っていると、
「まずは別居にするか?おれは東京に居るから簡単だぞ」
その返事も出来ないまま時間が過ぎてゆく。
作品名:「空蝉の恋」 第二十二話 作家名:てっしゅう