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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIGGUN1 ルガーP08 別バージョン

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「女の子にファーストネームで呼んでもらえるのは名誉なことだよ。ありがたく受け取ることだね。しかも一級品の美人さんだ」
 マスター・が大盛りのチャーハンを差し出しながら割り込んできた。   
「ありがとう、お世辞がうまいですね」
 俺にはまだ見せていない笑顔をマスターに向けた。
「お世辞なんかじゃないよ、私は街一番の正直者で通ってるからね」
 なにおう、街一番の正直者は俺だ。
 くだらん事張り合っても仕方ないのでチャーハンかっこみながら娘に聞いた。
「仕事ってなんだ」
「ボディーガードだよ」
確かにそのルックスでそんな超ミニはいてほっつき歩いていればスケベなおっさんに狙われる事もあるだろう。訴えたところで陪審員も「まぁ仕方ないだろ」って言うぞ、きっと。
「私今絶賛家出中なんだ」
 少し声のトーンが下がったのは罪悪感があるからか。今時プチ家出とかぬかしてしばらく家に帰らない奴なんか5万といるんだがな。
「親の手下が連れ戻しに追っかけてきてるんだけど、もう少しここにいたいのよ」
 のよ、と小首を傾げやがった。やるな。並の人間なら釣られて「うん」と言っちゃうだろう。
 しかし俺の答えは決まっている。
「やだ」
「なんでよ!」
 断られると思ってなかったんだろ、このお嬢さんは。わかりやすく目尻を吊り上げた。
 ふはは、小首傾げ敗れたり!
「俺、長期の仕事やらないの。そんないつ終わるかわからない仕事はパスだ」
「よし仕事期間中彼女になってあげよう」
 娘は体をちょいと近づけて微笑んだ。色仕掛けはまだ早いんじゃねーか。
「んな空手形受け取れるか」
 と言いながら鼻の下が伸びそうになったのは秘密。
「なんで断るのかなぁ風見君」
 マスターがまた割り込んだ。
「こんな可愛い娘さんと一日中一緒にいられるんだよ。お金払ってでもやりたい奴はいっぱいいるよ」
 隣でそーだそーだ言っている娘がなんとなく腹立つ。
「お嬢さん、彼の店に行ってもう一人の方に頼むといいよ。北下君ならきっと引き受けてくれるよ」
 相棒だ。
「キタシモ君?」
「ああ、彼も腕は立つし何より男前だ」
「興味あるなぁ」
 むかつくなぁ。確かに北下三郎は強い。ぶっちゃけ俺より強い。で身長もちと俺より高くて顔も若干俺よりいい。が、当社比で誤差範囲内だ。問題は素行だ。女に対する誠実さは俺のほうが遥かに上だ。俺の紳士度を天空に輝く満月とするなら奴はせいぜいゲンジボタル程度だ。女の子を日替わり定食にしているようなやつだぞ。 
「奴に女の子の警護なんかやらせたら当社の名に傷がつく不祥事が発生する。しかたねぇ最大10日、1日3万なら引き受けてやる」
「2万」
 真顔でVサイン出しやがった。
「お嬢様の癖に値切るな」
「2万5千」
 Vにパーを重ねる。
うむむむむ、まぁいいか。
「必要経費はそっちもちだぞ」
「承知、じゃあ前金ね」
 言うなり金髪ちゃんはショルダーバックからバンと現金10万を引っ張り出した。バッグの中にはまだまだ入っている。
 美少女が一人で歩いてるのだって危険なのに、バックの中に数十万かよ。
「銀行とめられたら嫌じゃない? だから先におろしといたのよ」
 へいへい準備のいいことで。
「とりあえずその金どっかに預けろ」
「意外と小心者なんだ」
 娘は横を向いて小さく笑い流し目でこちらを見た。かっこつけたんではなく自然な仕草だった。小学生に見える娘から一瞬だけ女の香りがした。
「商談成立だな。お祝いにコーヒーを奢ろう」
 マスターがサイフォンに手を伸ばした。しかし俺は待ったをかける。再確認する。俺たちしか客はいない。
「マスター、これ飲むからカップとお湯くれ」
 取り出したのはドリップ式インスタントコーヒーのパックだ。百均に売っている。マスターは文句言うどころか興味深げにそれを見て説明書どおりにカップにセット、お湯を注ぎ始めた。ちゃんとマスターと娘の分まで出した俺は紳士。
 豊かな香りが店に広がる。マスターはカップを鼻に近づけ香りを楽しんだ後、一口含み続いてごくりと飲んだ。ゆっくりとカップを置きふっと一息つくと彼は感想をこう述べた。
「・・・うまい・・・」
 だめだろ、この店。
 で、そのうまいインスタントコーヒーを堪能してから俺は席を立った。そうそうビジネスマンとして一言顧客に断っておかねばならんな。
「俺はひとまず警察に行かなきゃならん。仕事はそれからだ」
 娘はひょいとスタンドを飛び降りた。長い髪がふわりと浮く。背が低いので自然とそうなる。つい視線はスカートの方に行ってしまうが、うまく押さえやがったので何も見えなかった。
「ん、いいよ付き合うよ。すぐそこなんでしょ」
 娘は軽く言い放ったが家出娘が警察署に行っていいんだろうか。なんかずれてるよ、この娘。それはそうと。
「お前、名前は」
 極めてシンプルな質問に娘は噴出すように笑った。
「ああ、まだ言ってなかったね。私ジュン、セーノ・ジュン・ローランド」
 変なファーストネームだ。気に入っておらずミドルネームで呼べということだろうか・・・。
 ま、これで娘とか少女とか言わなくて済むな・・・。

 会計を済ませている間にジュンは外に出て行った。食事は男の子が奢る物でしょとぬかして。彼女ならともかく客の食事まで何で俺もちなのだ? 経費はお前もちって言ったじゃねーか。ま、これで堂々と領収書を切れるのだが。それにしてもボディーガードから離れて駅前に出ちまうなんざ危機感なさすぎじゃないか? 銀行強盗見破る注意力とどうもキャラが一致しない。お嬢様なんてこんなものかね。
 外に出ると心配した通りお譲ちゃん変なのにちょっかい出されていた。
一瞬たりとも追っ手とは思わなかった。
話しかけていた男の風貌を見れば一目瞭然。年のころは俺より少し上くらいだろうか、高校生か大学生か。ひょろっとした体型に相応しい73ヘアにメガネ、半袖のポロにスラックスといういでたち。ちゃらいナンパ野郎ではなく真面目タイプ。温和で知的そうに見える男だが迷惑そうなジュンの表情を無視してフレンドリーな笑顔で強引に誘っている。ふむふむ、大体わかった。
「チョットイイデスカー!」
 やつらのお株を奪う台詞で割り込んだ。
「なんですか君は」
 73メガネは少し怒ったようだ。ジロリと睨み付けてきた。
「ただの悪党です」
 飛び込みの保険屋のように微笑んで答える。今度はヤツの方が迷惑そうな顔をした。
「邪魔しないでくれますか」
「いや、仕事なもんでね。そちらは宗教?」
 こういう会話の時、つい揉み手をしてしまうのは何故だろう。
「宗教じゃない、セミナーだよ」
 そっちか。
「とにかく俺達用事があるんだ。遠慮してもらえるかな」
「いいじゃないか、僕達友達になれたんだし」
 ひとことふたこと話しただけでもう友達になった気でいやがる。それで女の子とお近づきになれるならやり手ばばあは必要ないんだよ。カチンと来たがここはレディの前でもあるし紳士的に。
「軽々しく他人に友達なんて言葉使うんじゃねぇ、失礼だろ」
 しまった紳士にしては言葉が汚かったか。
「僕達のセミナーに入れば友達になんてすぐになれる。そうだ君も参加してみないか。楽しいよ」