「空蝉の恋」 第十七話
「ええ?そんなことがあったの。教えてよ、直ぐに」
「恵美子に言おうと思ったんだけど、きっと佳恵さんから聞いているだろうと思っていたよ。知らなかったんだね」
「そうよ、毎週会っているけど言わなかったわね。やましく感じたのかしら?」
「佳恵さんは、和仁のことをひょっとして意識しているんじゃないのか?黙っていたということはそうとも取れるよ」
「康生さん、そうならもう和仁とはデートでもしていると思う。相変わらず会う時は三人なのよね。進んでないと思うわ」
「なあ、佳恵さんを誘って四人で遊びに行かないか?おれたちが仲良くしていれば、刺激を受けて気持ちが傾くかもしれないぞ」
「康生さん、それいい考えね。どう、和仁?」
「ああ、泊りにすれば・・・効果があるかも」
「いいね、お泊り。私と康生さん、和仁と佳恵さん。それとも四人同じ部屋?ハハハ~」
「お前は本当にやらしいなあ~」
和仁がそう言って三人は大爆笑になった。
こんな話が出来上がっていることを知らずに佳恵は徳永とのデートも終盤に差し掛かっていた。
薄い雲がかかる西の空に夕日が沈む。
茜色に染まる空が次第に薄暗くなってゆく。
浜辺に降り立っている佳恵と徳永はそれを眺めていた。
半分ぐらい太陽が水平線に沈んで、もう暗くなった浜辺に人影はなかった。
気配を感じて横を向くと、隣りにいた徳永がいない。
「えっ?」と思ったその瞬間、後ろからギュッと強く抱きしめられた。
「徳永さん~いけませんわ・・・」
もがく私の耳元で、
「佳恵さんが好きです。放したくありません」
「徳永さん・・・困ります・・・」
徳永の長い腕が少し上に動いて、私の胸を締め付ける。
「そんなあ~・・・恥ずかしいのでやめてください」
振りむこうとして、徳永と目を合わせた瞬間!
唇が重なった。
作品名:「空蝉の恋」 第十七話 作家名:てっしゅう