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[マル目線(前編)]残念王子とおとぎの世界の美女たち

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専属契約


「ほ?それはまことか?」

爺や様が目を丸くして、私を見た。

「頭領の許しは得ました。もし受け入れてくださるなら、専属契約を結ばせて頂きたいと思います。ぜひ国王様にお取り次ぎ頂けませんか。」

跪いて頭を垂れる私の前に、爺や様も膝をつく。

「しかし、我が国は十分な報酬は支払えんぞ?払えても、『護衛』ぶんだけじゃ。」

私は更に深く頭を下げる。

「もとより、仰せつかった任務以上の報酬は望んでおりません。それ以外のことは、私が勝手にしていることなので、目を瞑って頂けるとありがたいです。」

爺や様は私の手を取り、優しく握る。

「そんなに良い主でもなかろうに?」

私は爺や様のおちくぼんだ優しい瞳を見上げて、微笑んだ。

「いえ、今まで色んな主に仕えましたが、心からお仕えしたいと思えたのはカレン王子だけでございます。」

爺や様は、ふっと目元に厳しい色を浮かべた。

「しかし、おまえは花の都の王女。そして、いずれ星一族の頭領となるべき身。年齢を考えても、専属契約など結んでおると、将来に障るのではないか?」

(爺や様。)

その深い思いやりに、胸が熱くなる。

そう、私の母は、花の都の女王。
そして父は、女王の夫君であり、忍の『星一族』の頭領でもある。

ただ、今回私が深く関わったこの国以外には、私が王女であることと、『花の都の夫君=忍の頭領』ということは、秘密である。

「それが…、結婚はもとより、私は頭領にならないことになりまして…。」

言いながら、思わず爺や様から目を 逸らしてしまう。

「ほ?」

爺や様が首を傾げる前で、私は床に頭をこすりつけた。

「決して、どうこうなろうなどと思っておりません!王子には王子にふさわしい、王子が望む姫君との婚姻がいずれ執り行われることは、わきまえております!ただ、勝手に私がおそばにいたいだけなのでございます!一国の王女とはいえ、今は雇われた一介の忍の身。身の程はわきまえておりますので、どうかお見逃し頂けたら…!」

「王子に想いを寄せている、ということか?」

私の言葉を遮るように言葉を被せてきた爺や様の低い声に、肩がはねあがる。

「…。実は、専属契約の話を頭領にしたときに、自白の術にかけられまして…私自身もその時に初めて自覚した次第にございます…。」

一呼吸おいて、私は言葉を続ける。

「頭領から『守りたいと思う者ができたのなら中途半端に二足のわらじを履いてはいけない。頭領は別の者でもできるけれど王子を想い、本当の意味で命を懸けてお守りすることは自分にしかできない。』と言われまして…その想いを貫く許しと共に、廃嫡となったのでございます…。」

爺や様は私の震える肩をぽんぽんと優しく叩くと、ぎゅっと掴んだ。

「噂には聞いておるが…本当に良い夫君であり、父君であらせられるな、空(そら)様は。星一族を継がせようと、おまえに期待されていただろうに。…聖華(せいか)女王様は、なんと?」

「はい…母は自らも父上と一緒になるために想いを貫かれ、様々な困難を乗り越えられた方なので…私の気持ちを大事にしてくださいました。」

私は顔を上げて、まっすぐに爺や様の瞳を見つめた。

「王子が今のまま汚れないよう、いずれ国を治める時がきたときには孤独にならないよう、おそばで支えたいと勝手に思っているだけです。ですから…」

爺や様は優しくその目を細める。

「そう遠くない時に、わしは王子のおそばから離れないといけなくなる。
その時にマルがいてくれるのであれば、安心して旅立てるのう。」

その想いに、私の両目が潤んだ。

「爺やさ…」

「しかし、王子もすぐに爺いになって、美しくなくなるぞ。」

からかいを含んだ言葉に、私の両頬が一気に熱くなる。

「わ、私は容姿に惹かれたわけではありません!!」

「ほっほっほっ。まぁ、そうであろうな。おまえと初めて契約した時にお会いしたことがあるが、おまえの父君は、この世のものとは思えない美貌でいらっしゃる。美しいものは、見慣れておるだろうからな。」

おもしろがるように笑う爺や様に、私は想いを吐露した。

「王子は…本当は全てわかっていると思うのです。でも、得たことのない母親の愛情を渇望し、それを恋愛でなんとか満たされようともがいているのだと思います。私はそういう愛情を注ぐことはできませんが…王子が心から寛げるようにお世話し、お守りしたいと思います。」

私の想いを、爺や様はその大きな手で、私の頭を力強く撫でて受け入れてくれた。

そして、爺や様は国王様に専属契約の話をしてくださった。

晴れて専属契約を取り交わすことができたので、私は頭領からの命による里の任務をしなくてよくなり、王子のおそばにのみお仕えできるようになった。