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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅷ

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(第七章)ブルーラグーンの資格(5)-久しぶりの隠れ家②



 日垣は、水割りのグラスを揺らしながら、美紗が青いカクテルを静かに飲むのを、じっと見つめた。
「そのカクテルも、強そうだね。名前は、ブルー……?」
「ブルーラグーンです。マティーニほど強くなくて……」
「じゃあ、それなりに強そうだ」
 そう言って、日垣はクスリと笑った。それが耳に心地よくて、美紗も柔らかな笑みをこぼした。
「吉谷女史とは、結構仲が良かったようだね」
「とても親切にしていただきました。吉谷さんにはまだいろいろと教わりたいことがたくさんあったんですが……」
 吉谷綾子は、九月一日付で航空幕僚監部に異動していた。異動と言っても、同じ建物の数階上のフロアに移っただけだが、美紗が吉谷の姿を見かける機会はめっきり減った。

「彼女は、君のいいメンターだったんだろうにな……。しかし、会えなくなったわけじゃないんだ。何かあれば遠慮なく相談に行けばいい。吉谷女史を目標にやっていれば、いずれ君も立派な専門官になれる」
「私は、とてもあんなふうには……」
 美紗は、テーブルの上に戻した青いカクテルを見つめながら、ゆっくりと頭を振った。
「吉谷さんは、何でも出来て、迷いがなくて、いつも自信に満ちていて、……目標にするには、あまりにも遠すぎます」
「そうかな。吉谷女史と君では、十五年以上もキャリアの差があるんだ。今の時点で比べることに意味はない。彼女も君と同じくらいの頃は、いろいろ迷うことがあったんじゃないかな。貿易会社を辞めてうちに入ってきた時も、自分の選択に百パーセントの自信を持っていたわけではないと思うよ」
 日垣は椅子の背に身を預け、ゆっくりと水割りを飲んだ。グラスの中の氷が軽やかな音を立てた。
「そういえば、結婚を迷っていると相談されたこともあったな。私が東欧に赴任する前だから、もう七年も昔の話だ」
 美紗は素直に驚きを露わにした。常に隙のない印象だった吉谷綾子が極めてプライベートな問題を職場の関係者に打ち明ける姿は、なかなか想像し難かった。