半夏生の朝
教授が足元から声をかける。ストリップ小屋のつもりだ。その状況設定を理解して
女はランジェリーの裾を上げて見せる
ひもパンを脱ぐ
教授が床にはいつくばって女を見上げる。夏至の朝の続きだ。
「毛、剃ってるの」
「そう、毛、剃らされてるの」
腰をふる。花芯の入り口がぱくぱく、動く。
「すごいなあ、バナナ切りできるよね、どうして鍛えたの」
「彼がね、すごいのよ」
「ふん、フン、そうなんや」
「仕込まれたのよ」
「なんで、あんたみたいなきれいな人がストリップしてるの」
「売られちゃったの」
「ええ、売られたんか」
「交通事故でね、相手がやくざでね、ベンツにのせられて、連れていかれ、5人とか10人とか、やられてしまい、何かわからなくなってしまい、いつの間にかこんなところに」
「おもろい、その設定、ええ」
「私を買って」
「彼ってどんな男なんや」
「ものすごく乱暴なの」
「言うことを聞かないとね、縛られて、吊るされて、お酒飲みながら見てるの」
「へええ、えらい乱暴な奴やなあ」
「ねえ、私を買ってよ」
最初は教授が設定したが、途中から女が盛り上げた。
夫とのセックスをふりかえる。
一方的だったが、もっと楽しめれば、盛り上がっていたのかももしれない。声を出すな、感じるな、とか、今、思い返せば、快楽を追求できたかもしれない。
ストリップショーも気に入っている。他人というか、もう一人、だれかが紛れ込んでくるのは興奮する。しかし、他人の視線があるという設定になかなか慣れないものだ。アンバランスなのだ。
教授は何枚も何枚も画像を取った。女は、命じられるまま、ありとあらゆるポーズをとった。モデルの心地がした。自分の体がこんなにも柔らかいのかと思った。また、美しいと思った。美しくなければならない。
あらゆるものに変化した。縛られると、そのひもは、教授の忠実な弟子のよう。長くしなやかなむちが、女の肌をなぶった。
パーン、パーン。
皮膚の表面の音なのに、体の中心部にある泉の表面が揺れているように思えた。そう思うと、まったく新しい官能が起こる。官能をあらわす悲鳴のような、呻き声を上げる。
教授は立たないせいかどうか、最初から、女の体を舐める、舐められるので、舐めてあげられた。足を開く、教授が顔を近づけてきてなめる、舐めながら、指を入れる、そのまどろっこしさが、その間合いが逆に感覚を尖らせた
「悪い女や」
と教授はくりかえし言った。
「貸し出さなあかんな」
教授の言う意味が分からない。どうして、男たちは同じことを言うのだろう。自分が悪いのか、自問する。
教授の男根を手の中に握り込む。これがいい、凶暴さがない、女が自在に操っている、そう思うと、男はかわいいとさえ思えてくる。
舐めていると、少し硬くなる。教授は、立たせてくれるのがいい、とほめる。奇妙な関係だ。教授は、女が辛抱強く舐める、舐め続けるのが気に入っている。一方、女は男を操作しているつもりだ、主導権は自分にある。
袋ごと口に含んで刺激する。
「いい、いい」
穏やかな快感が生まれ、愛されていると感じられる。口の中に入れると、ゆっくり大きくなる。
「硬くなったから、入れて」
もう、と女は思ったが、教授は、硬いというのだ。哀願と思えた。
硬いといっても、芯がないから、
「松葉崩しで、しましょうか」
「ええなあ、そうしよう、それがええ」
女は夫に教えてもらった言葉を繰り出した。女が足を開く。教授が入れようとするがたどたどしい。女の左足を教授の腰の上にのせる。大きく開かれて、挿入しやすくなるはずだ。教授はたしかに入れているが、ほとんど動かない、動けないというべきか。腰を使わないのだ。それでは、女の方が動かないと、腰をゆっくりと前後にゆするようにした。まるで初体験の少年に教え込むような感じはこうかと、想像した。
すぐに柔らかくなる。もう愛情というものがなければ、おしまいになるケースだろう。仕方ないから、口に含む。教授は口に射精する。女は飲んだ。
「僕のためにありがとう」
ほほを摺り寄せてくる。女はそういう教授が好きだった。
「私ね、いつも一人よ、ひとりなの」
自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「ねえ、先生、夏至の後は、なんて言うの」
「半夏生、や」
「半夏生、か、意味が深そうね」
「農業でね、夏至はやり過ごせ、半夏生は待つな、て言うんやな」
「ふーん、チャンスが短いってことね」
「そう、そう」
きっと昼間は、若い研究者と会っていたのだろう。そのこと自体はまったく気にならないが、若い研究者が一緒に来店するようになって、良い感じはしなかった。何か探られているように思えたからだ。教授の愛人である研究者に気づかれたくないと思うが、どうなってもよいとも思う。
女は、夏至はやり過ごせ、半夏生は待つな、と心の中で繰り返しながら、夏至の後の急展開を恐れて、半夏生の朝がどうなのか、不吉な予感を覚えるのであった。