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花火大会(掌編集~今月のイラスト~)

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「お待たせっ」
 
 ようやく母の着付けが終わったようだ。
 まったく、渋滞に嵌った時は遅れるだの何だの文句を言い続けていたくせに、浩美ちゃんだけじゃなくて浩子伯母さんも浴衣を着ているのを見ると、自分も着ると言い出して伯母さんの浴衣を借りたのだ。
「義男、さっさと車出しなさいよ、早くしないと駐車場が一杯になっちゃうじゃない」
 はいはい、言いたい放題言ってくれちゃって、もう……。
 
 母は伯母さんと一緒にさっさとリアシートに乗り込む。

 浩子伯母さんは伯父さんの奥さんで母の幼馴染みでもある、小学校から高校までずっと一緒だった親友同士、まあ、親友の兄と結婚するのは田舎ではありがちなことだし、母が毎年里帰りを楽しみにしているのは義姉となった親友に会いたいが為でもあるんだ。

 しかし……となれば、助手席に乗るのは浩美ちゃん、母への文句も引っ込んでしまう。

 
「さすが花火の本場よねぇ」
「東京にも花火大会あるでしょ?」
「あるけど、こんな大きい花火は打上げられないのよ」
「あ、そうか、建てこんでるもんね」
「そうよ、こっちの出身だと八寸玉くらいじゃ物足りなくてねぇ」
 
 ぺちゃくちゃと賑やかな母親同士に引き換え、浩美ちゃんは妙に大人しく座ってじっと花火を眺めている、四年前、五年生だった頃にはまとわりついて暑苦しいくらいだったのに……。

「あ~暑い、ちょっとビール飲み過ぎちゃったかな、お茶か何かある?」
「ごめん、義男ちゃんと浩美の分だけしか持ってこなかった」
「そう……義男、冷たいお茶か何か買って来なさいよ」
「自分で行けばいいだろう?」
「あたしはおしゃべりに忙しいのっ、一年ぶりに親友と再会してるんだからちょっとは気を利かせなさいよ」
「はいはい……伯母さんは?」
「じゃ、あたしも一本お願いしようかな」
「浩美ちゃんは?」
「あたしは……一緒に行ってもいい?」
「うん、じゃ、そうしようか」
 立ち上がって手を差し伸べてやると、ちょっと戸惑い気味に手を重ねて来る。
「よっ、お二人さん、いい感じじゃない?」
 まったく一言多い母親だ……。
「浩美が今年十五で義男ちゃんが十九か……ああ、年回りも悪くないね」
 伯母さんまで……悪い気はしないが。
「でしょう?」
「あ、でもいとこ同士だよ」
「いとこなら法律的には結婚もできるよ」
「そうなの? そうなったら恵子はあたしの何になるわけ?」
「浩子があたしの義姉さんだけどね……浩美ちゃんより義男の方が年上だから……」
「ややこしいね」
「どっちでも良いじゃない、親戚関係が濃くなるってことよ」
「そうね!」

 まったく、何を話しているんだか……。

「あ、上がった上がった、た~ま~や~」
 
 都内では見ることのできないニ尺玉、夜空に咲いた大輪の花は辺りを明るく照らした。
 もちろん浩美ちゃんの横顔もね。
 その赤く染まった頬が花火のせいばかりではないと良いんだけど……。


「名残惜しいわぁ、また来てね」
「うん、3連休でもあればほいほい来ちゃう、なにしろ専属運転手が出来たからね、リアシートでふんぞり返ってれば着いちゃうんだから楽なものよ」
 ……微妙な笑みを浮かべざるを得ない。
 半分は苦笑、でも、もう半分は……。
「ああ、いつでも運転させて頂きますよ」
 母さん、言って置……いや、口には出さないけど、今の言葉は母さんにじゃなくて、浩子伯母さんの隣の可憐な少女に対して言ったんだからね。