同級生
◇◆ 同窓会編 ◆◇
家庭を持ち、アイツと私は親になった。
初恋に燃えた過去などまるでなかったかのように、互いをお父さん、お母さんと呼び合い、アイツは仕事に、私は子育てに追われる日々が続いた。
そうして時は流れ、やがて子ども中心の生活から解き放たれる時がやって来た。子どもたちが巣立ち、久しぶりにふたりだけの暮らしが始まったのだ。ファミリーからペアに戻ったこの時を寂しく感じるのは、歳をとってしまったせいだろうか。
それでも、子どもたちが立派に育ち、それぞれの家庭を持ったのだから、親としての役目を果たせた喜びはもちろん大きい。孫の顔を見られる日もそう遠くないだろう。
そんなある日、私たち夫婦に中学校の同窓会通知が届いた。特に還暦を迎える私たち学年の出席を促す内容が添えられていた。アイツと相談し、そろって出席することにした。
そしてこれを機に、お父さんお母さんと呼び合うのはやめよう、そう私たちは話し合って決めた。少しでも若い頃の気持ちを取り戻し、胸を張ってかつての級友たちに会おうという思いが一致したのだ。そして、アイツはジムに通い始め、私はダイエットに励んだ。
二ヶ月が過ぎ、私たちはそれなりの成果を上げた。アイツのお腹は引き締まり、私もワンサイズ下の洋服を購入した。部屋には新調したバッグやアクセサリーが出番を待ち、玄関にはピカピカの靴が、二足並んでいた。
そしてとうとう当日がやって来た。私たちはにこやかに家を後にする……ことはできなかった。
なんと直前になって、二人そろってインフルエンザにかかってしまったのだ。こんなことってあるのだろうか! すべての準備と努力が水泡と化したのだ。ふたり並んで床に就き、私は天井を睨んで同窓会の会場を思い浮かべていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
俺たちは銀婚式の年に還暦を迎えた。
俺は、それを境に昔のような恋人同士に戻りたいと思った。まずは名前で呼び合いたい、もうとっくに親は卒業したのだから。でも、いざとなるとそんなこと、照れくさくて言い出せない。そこへあの同窓会の知らせだ。俺は同窓会にかこつけて、恋人気分を取り戻す下地作りに利用させてもらった。
俺は男として、あいつを振り向かせるためにジムでトレーニングに励んだ。頭皮のマッサージも怠らなかった。
あいつも痩せる努力を始めたが、きっと同性の目を気にしてのことだろう。俺にとっては、今のままのあいつで十分魅力的だったが、それに磨きをかけてくれるのを止める理由もない。
俺は、同窓会なんてどうでもよかった。ひとりだったら絶対欠席だ。どこでもいい、ドレスアップしたあいつと出かけたい、ただそれだけだった。ああいう場は本来苦手な俺は、アクシデントで出席できなくなったことを、実は少しホッとしていた。
でもあいつは昔の友人たちに会うのを楽しみにしていたようで、すっかり気落ちしてしまった。そこで俺は、代わりにあることを提案した。
あの土手へ行ってみないかと――
そして元気になると俺たちは、久しぶりにあの小道を並んで歩いた。
まわりにマンションが建ち並び、それなりに時の変化を感じさせられる。俺たちだって、制服姿から白髪の混ざるカップルになっているのだが、あの頃の気持ちになれるひとときは愛おしかった。それから俺たちは毎年バレンタインデーに、この思い出の場所へ足を運ぶようなった。
幻の同窓会となってしまったが、その招待状が俺たちを恋人同士に戻るきっかけを与えてくれたと思っている。そして、いつでもあの頃のふたりに戻してくれる土手の小道に、俺は心から感謝している。
完