同級生
◇ 交際編 ◇
友人の結婚式での再会を機に、アイツと私の交際が始まった。幼なじみという間柄なのに、実は私はアイツのことを何も知らないことに気づいた。無理もない、幼い頃は反発し合っていたし、異性としての交際はたった一日、いや、ほんの一時間だったのだから。
高校時代、サッカーをやっていたのは知っていた。だが、大学ではアメリカンフットボール部に所属していたと聞いて驚いた。あまりに馴染みのないスポーツだったので、ルールから説明してもらわなければならなかった。
子どもの頃から運動神経抜群のアイツのことだから、花形選手だったことは容易に想像がつく。それにあの独特の派手なユニフォーム姿では、きっと女子学生にチヤホヤされたことだろう。
そして、何と言っても、五年も同棲した彼女がいたというのには驚いた。正直、ショックだった。同棲という言葉は重く、五年という月日は長い。
それにしても、なぜ結婚に至らなかったのだろう? それだけ一緒に暮らせば、流れとして結婚に向かうのは当然のように思う。
自分でも不思議なのが、その彼女に対して嫉妬心より同情の気持ちが強いことだった。同じ女として、結婚を望んだら別れを告げられるなんてあまりにもひど過ぎる。長く一緒に暮していれば、女としては、いずれ結婚すると考えるのが普通だ。彼女はプロポーズを待っていたに違いない。
実際、アイツとはそのことで言い合ったりもした。元カノのことでもめるのはよくあることだろうが、彼女を擁護して彼氏を責めるというケースは珍しいだろう。
アイツはアイツなりに誠意を尽くしたと言うが、男というものを根本的に理解するのは難しいと思い知らされた気がした。
一方で、私たちは、大人の恋愛を楽しんだ。お互い会社員だったので、週末の土日のどちらかには会うようになっていた。そして、若い頃と違った落ち着いたデートを重ねた。会話も、昔のことや現在のこと、共通の友人のことなど、事欠くことはなかった。
それから一年がたったクリスマスイブの夜、私たちは華やぐ街中を歩いていた。ちょっとオシャレな店で食事をし、クリスマスプレゼントに私は誕生石のネックレスをもらった。
肩を並べて歩いていると、遠い昔、中学生の頃に土手の小道をふたりで歩いた時のことが、ふいによみがえった。
あの時の夕陽の代わりに今はイルミネーションが輝き、静けさの代わりにクリスマスソングが流れている。そして心地よいそよ風ではなく、冷たい北風が頬に当たり、誰もいない小道ではなく、雑踏の中という、まったく対照的な状況なのに、なぜか心はあの頃に戻っていく。
その時だった。アイツが手を差し出した。それに誘われて私もポケットから手を出すと、アイツはしっかりと私の手を握った。
(あの時と同じだ! きっと、この人もあの時を思い出していたんだ)
私の胸は思わずキュンとした。それに追い打ちをかけるようにアイツが言った。
「結婚しよう」
もし若かったら、なぜ、あのレストランでプレゼントを渡す時に言ってくれなかったのか、なぜ、こんな人混みにかき消されるような場所でそんな大切なことを言うのか、と腹を立てただろう。
でも、今の私は、この場所を、この時を選んでくれたことがとてもとてもうれしかった。
一筋の涙を流しながら、私は何も言わずにただアイツの手を強く握り返した。