六年後の戦友は……
都合の良い事に二人掛けの隣は空席、俺はそっと封筒を取り出し、封筒を傷つけないように丁寧に開けた。
まず目に飛び込んで来たのは、カードからはみ出すように描かれた花束のイラスト。
あまり上手とは言えないが、沢山の色鉛筆を使って丁寧に描いたものだとわかる。
手紙そのものと別のカードに描かれているのは、おそらく何枚も描き直したのだろう。
そして便箋……。
俺は少しドキドキしながら、丁寧に折り畳まれたそれを開いた。
青いインク……あの万年筆で書いたに違いない。
『今まで本当にありがとう……四年生のバレンタイン、今でもはっきり憶えてます、正直に言うと、誰もいない公園で思いっきり声を上げて泣こうと思ってたのに邪魔な人がいたから随分と腹を立てちゃった……自分でもすごく生意気なこと言ったり、嫌な態度を取ったりしてたと思う、ずっと言えなかったけど、あの時はごめんなさい。
でも、そんなあたしに親切にしてくれた……ぶっきらぼうな感じだったけど、それが却って良かったの、優しく声をかけられてたらきっとふっきれなかったと思う。
次のバレンタイン、本当に来てくれると思ってなかった、好きな人が出来てたらそれまでだし、子供との約束なんか忘れちゃうんじゃないかと思った……来てくれたとわかった時は本当に嬉しかった。
そんなにしょっちゅう会ってたわけじゃないけれど、会う度にあたしの心の中に一輪づつお花を置いて行ってくれたの、それが今ではこんな大きな花束になりました。
だって、心の中のお花はいつまで経ってもしおれたりしないから、会ってくれてお話したりすると、何年も前のお花でもまた元気になるから……。
あたしももう高校生になったんだから、一輪づつでもお花を贈り返したいなと思ってた。
その最初の一輪がこのバラの花です。
本当に帰って来る時は教えてね、一輪づつでもお花をお返したいから……』
読み終えた俺は胸ポケットからスマホを取り出した……が、すぐに元に戻した。
この手紙への返事はメールなんかで済ましちゃいけない、そんな気がしたから。
向こうに着いたら、駅ビルの文具屋へ寄って封筒と便箋、そして青インクの万年筆を買おう……切手も忘れずに。
そして、こう書いて返すんだ。
『一輪の花、確かに受け取ったよ、心の中でずっと大切にするから』
新幹線は時速200キロでひた走る。
でも、心の距離はそれとは逆にどんどん縮まって行くような気がした……。
終