ツイスミ不動産 物件 X
年末に一年の漢字一文字が清水寺で発表される。2017年は『北』。
まさに的中、キタサンブラックが有馬記念で有終の美を飾った、と浮かれてる場合じゃない。
本命は北朝鮮の『北』だ。現在も核爆弾を搭載したICBMの開発に躍起となっている。このため米国との間で一触即発の緊張状態が続いている。
そんな不安な年尾に、ロング丈のダウンジャケットを粋に着流した男女が気配なくツイスミ不動産に入って来た。
女の頭は金髪カツラでこんもり、男の髭は上品に白い。どうも栄光も挫折も味わい終えたシニアカップルのようだ。
一方店内では、「俺は今年、粉骨砕身で働き過ぎたよ、現在満身創痍の血だらけ、だけど誰も労ってくれな〜い」と、クワガタこと自称イケメンの紺王子宙太(こんおうじちゅうた)が笠鳥凛子(かさとりりんこ)課長に聞こえよがしにほざく。
すると「早々と仕事納めして、ご褒美ねだってんじゃねーよ」とキツイ蹴りが入る。
即座にクワガタが「カサリンさん、これはパワとイジメのダブハラです」と刃向かう。
これを軽く聞き流した女鬼課長、「おい、低知能の昆虫、もう100回くらい業務命令してきたろ、私のこと英国セレブ風にカサリンでなくキャサリンと呼びなってば」とヤケクソにブルーな瞼を凝縮させる。その結果、もう紺色に。まことに珍妙な色合いだ。
だがクワガタは不思議な感動を覚え、「そのお目々、マジ卍っスか」と。
「なぬ、卍?」と首を傾げたカサリン、ポキポキと指を鳴らし、「アントニオ猪木の卍固めして欲しいのだな」と。
こんなやり取りを見ていたご婦人が低い声で「同じ職場で、このジェネレーションギャップ、悲劇だわ」と頭を垂れる。
ここで初めてカップルの存在に気付いたツイスミ不動産の二人、仕事モードに切り替え、私たちはこの理念で、いつも心はピッタンコですと1枚の紙を差し出す。
作品名:ツイスミ不動産 物件 X 作家名:鮎風 遊