痒いよ! ライダー!
「ちょっとそのままつまんでいて」
セイコは印を結んで呪を唱える。
「行きなさい、虫たちに蚤男から決して離れないように言い聞かせて頂戴……レディ9、放してあげて」
蚤はピョンピョン跳びはねて蚤男に飛びついた。
「どういうこと?」
「今の蚤を式神に仕立てたの、これで蚤男の体に貼り付いてる蚤はあの子の言うとおりにしてくれるはず」
「だったら、蚤男に触れられるわけだ」
「ええ、でも、あんまり強い衝撃を与えると蚤が零れ落ちちゃうかも」
「だったらこうね……えいっ」
レディ9が素早く蚤男の後ろに廻り、首筋に手刀を見舞うと蚤男は声もなくあっさりと崩れ落ちた。
「あっけないな……フー・マンジュー! 見ろ、蚤男は倒したぞ! 我々を甘く見たな」
「わはははは! 甘く見ているのはお前達アルよ、蚤男は騒ぎを起こしてお前達をおびき寄せる囮だったアルよ」
「何だか無駄に手の込んだ事を……」
「クレームは作者に直接言うヨロシ、勝負はここからアル! 出でよ! 戦闘員ども!」
「何っ!…… ん? 戦闘員が何処にいると言うんだ?」
「さぁな……教えてやる義理なんかないアルよ」
「これは風切り音……後ろ! 上よ! 飛んで来る!」
地獄耳を発動したレディ9が異変を察知して叫ぶ。
振り返ると数十人の戦闘員が黒い翼と鋭い嘴を付け、夜の闇に乗じて急降下して来ている、その様はまるで烏の大群だ。
「ライダーキック!」
「フックアーム!」
「食らえ! パイプ椅子!」
ライダー達も応戦するが、多勢に無勢、しかも空からの攻撃とあっては勝手が違う。
「忍法・つむじ風!」
レディ9は旋風を起こして墜落させようとするが、少しバランスを崩せるだけで墜落には至らない、しかし烏戦闘員達の狙いを狂わせてライダー達への直撃は防いでくれた、そして狙いを外した烏戦闘員は羽ばたいて再び上空へ。
「いくら強化スーツを着ているからと言っても、人間の筋力で飛べるはずは……」
ライダーマンの疑問に、図らずもフー・マンジュー自身が答えてしまう。
「わはははは、驚いたアルか? そいつらには『自分は烏』だと暗示を掛けたアルよ」
「暗示? そんなことでこれほどの筋力を発揮できるとは……いや、待てよ、暗示にかかっていると言う事は……セイコちゃん! 手鏡はないか?」
「コンパクトなら!」
「それで十分だ、こっちに投げてくれ! レディ9はクナイの用意を! おーい、こっちだ、こっちだ!」
ライダーマンが鏡を振ると、烏の本能に支配されている戦闘員達は一斉に鏡に向かって急降下する。
「レディ9、今だ!」
「えいっ!」
レディ9の投げたクナイは何枚かの翼をたやすく突き抜け、翼は切り口からビリビリと裂けて行く。
「思ったとおりだ! あの翼はナイロン製だ、ならば……セイコちゃん、カセットガスを!」
「はい!」
なにぶん急造の夜店、プロパンガスではなく家庭用のカセットコンロを使っている、それが功を奏した。
「これでも食らえ!」
ライダーマンは受け取ったカセットガスをアタッチメントアームに装着すると翼に向かって火炎放射、すると、見る見るうちに翼は溶けて骨組みを残すのみ、急降下していた戦闘員は地面に叩きつけられる。
「もっとガスを!」
「今ので最後だったの! そうだ! これでも良い?」
セイコが投げたのは虫除けと殺虫剤のズプレー。
「はっ! いいとも! 中身はLPGたっぷりだ!」
「殺虫剤ならこっちにもあるぞ!」
「ライダーマン! ウチの虫除けスプレーも使ってくれ!」
出店していた夜店のあちらこちらから声が上がり、それぞれの手にはスプレーが握られている、烏戦闘員を全滅させるのに充分な量だ。
「い、いかんアル、撤退するアルよ!」
フー・マンジューは残った戦闘員の脚に掴まり空へと飛び去って行く。
「くそっ、空へ逃げられちゃ追えないな」
あまり活躍の機会がなかったマッスルは悔しがるが、ライダーとライダーマンはぽんとその肩を叩く。
「とにかく退けられただけでも良いじゃないか、烏戦闘員の弱点も見抜けたしな」
「そうさ、それよりも祭の続きさ」
一時避難していたLOVE BRAVEが櫓に戻り、校庭は再び歓声に包まれた。
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
「お前ら……刑務所で罪を償って来い、もうショッカーなんかに戻るんじゃないぞ」
墜落した戦闘員は駆けつけた警官隊によって一網打尽。
連行される戦闘員たちに、仮面ライダー・マッスルの変身を解いた納谷剛が諭すように声を掛けて廻っている。
一方、男気に溢れる硬派の隼人は少し浮かない表情だ。
「で……蚤男なんだが……」
「ああ、妙な改造だが、おそらくは薬物による改造だからな、最新医療でたぶん元に戻せるだろう、警察にも友人の病院に運んでやってくれるように頼んだよ、ちょっと息苦しいだろうが、遺体搬送用のビニールバッグもな」
「ははは、そうか、そうでもしないと奴には触れないからな」
隼人と丈二は顔を見合わせて笑った。
だが……。
警官の手によってビニールバッグに蚤男が収容され、ジッパーが閉められるその瞬間、セイコが放った式神が脱出した事は誰も知らず、後日、結城丈二は友人の医師からこってり絞られることになったことだけ記しておくことにしよう。
(終)
作品名:痒いよ! ライダー! 作家名:ST