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白球の夏

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 僕は今、島の高校教師になって、野球部を指導している。大学時代、ひとり旅でぶらりと訪れたこの島が気に入り、卒業を待って島民となった。
 今日はかつての仲間たちが島を訪れる日だ。夏の甲子園の開会式前日、島の野球部員たちと親善試合をし、翌日、甲子園の開会式をみんなで見るのが恒例になっていた。
 
 みんなを出迎えるため、生徒たちと港に向かった。潮の香り漂う小さな港に、ちょうど船がついたところだった。デッキから海を眺めていた一行がこちらに気づき、手を振っている。
 
 親善試合で汗を流し、島の民宿に着いたかつての球児たちは口々に、高校生相手にゲームをすることが年々辛くなってきたとこぼしていた。そして、酒を酌み交わすと必ずあの話が出る。
 若き日、甲子園をかけた決勝戦、僕の逆武勇伝だ。
 ひと通り、酒の肴にすると、最後に必ずみんなはこう言った。僕のおかげで決勝戦まで連れてきてもらえたのだから感謝していると。あの日以来、この言葉にどんなに救われたことだろう。あの後母校はまた以前のように、勝ったり負けたりで、あの時のように勝ち進むことはなかった。
 残念ながら甲子園に手は届かなかったが、もう少しというところまで行ったあの夏は、僕たちの友情と青春の証だった。こうして、深い絆で結ばれ、顔ぶれがそろえば、いつでもあの頃に戻ることができる。
 あの時、顧問の先生が僕を導いてくれたように、僕も高校野球の素晴らしさを伝えていきたい。甲子園に出るためにではなく、夢に向かって進むことの大切さ、それが叶わなくても得られることがあることをわかってほしいと願い、子どもたちの指導に当たっている。そして、これが僕のライフワークになった。
 
 画面の向こうで、それぞれの学校のユニフォーム姿の選手たちが胸を張って行進をしている。代表の主将が、立派に選手宣誓の大役を果たした。
 さあ、夏の甲子園の始まりだ。全力を尽くし、人々に感動を与え、自分たちの心に残る夏にしてほしい、そう思いながら、名もなき高校の僕たちOBは、今年もまた、テレビに向かって声援を送り続ける。
 
 
                     完
作品名:白球の夏 作家名:鏡湖