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レイドリフト・ドラゴンメイド 第33話 セカイの生き方

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 避難民は誰にも何も言わない。
 でも、時折武志達の乗る車に向けられる視線には、恨みや後悔を込めて睨みつける意思を感じる。

 彼らが怒鳴ったり、襲い掛かってこないのは何故か。
 やはり、恐怖だろうか。

 人ごみの先端が、歩くスピードを上げた。
 広場にはすでに、朝ごはんの準備ができている。
 用意したのは、日本の自衛隊や警察の人たち。
 言語の問題で、彼らにあてがわれた。
 湯気を上げるのは、移動できる調理セット。
 自衛隊から持ってきた物がある。
 残された屋台の残骸から引っ張り出した物もある。

 そこへ、避難民が押し寄せ、並んでいく。
 はたから見ても、活気が満ちていく。
 その人がどくと、次の人に器とスプーン。そしてとにかく食い合わせのよさそうなものを雑多に混ぜたスープが配られる。
 疲れた時には内蔵も弱っているから、薄味だ。

 正直、今までメイトライ5が行ったどんなコンサートより盛況だった。
 きっと避難民にとっては、一晩の恐怖から生き延びたという喜びもあるのだろう。

「朝ごはんを食べたら、元気が出るよね。少しは怖がらせた償いができるよね」
 武志と達美はそう願った。

「あれ、あそこ変じゃない? 」
 武志が気づいた。
「どこ? 」
「塀が倒れてるところ」
 広場を囲う、フェンスを載せた高い赤レンガの分厚い塀。
 それが外側からかけられた大きな圧力に負け倒れている。
 裂け目の幅はおよそ10メートル。
 その端に、一台のブルドーザーが止まっている。
「避難民が、一度喜んだのに、唐突それを止めた? 」

 その向こうは市街地だ。
「窓の中を見て」
 達美に言われ、目は電子的に拡大する。
 隙間なく人が横たわっていた。

 武志はあわてて検索した。
「データがあった。
 彼らは夜明け前まで、この広場に侵入しようとした市民だ。
 大規模な暴動だったらしい」

 それを城戸 智慧たちテレパシストが眠らせたのだ。
 チェ連の焦土作戦の火は消え、道路は炭混じりの濁流がようやく流れきった。
 暴徒となった彼らは、ちゃんとブルドーザーのエンジンを切り、目も耳も何も感じないようにされて、落ち着く闇と無音の中で眠りについた。

 暴徒と入れ替わりに、無言の徒がやってきたわけだ。
 割りと遠くないところで、何本もの大型ロケット弾が飛んでいく。
 陸上自衛隊の多連装ロケット弾発射機MLRSだ。
 射程は弾によっては300キロメートル。
 サッカーグラウンドを何枚も薙ぎ払うような、点や線よりも面を抑える武器だ。
 それが次々と、轟音と白煙を引きつれて宙を登る。

 ロケット弾の行き先は、数時間前まで武志たちがいた、山の向こう。
 マトリクス聖王大聖堂。
 その一点から放たれ、朝焼けより赤く、振り回されるように天を薙ぐ、幾本もの光。
 ボルケーニウム光線。
 女神ボルケーナの全身から放たれる、超常の光線。
 その効果は様々。
 三種族に人間の姿と知識を与えたのもあれだ。
 ディスプレー上のマップによると、今放たれたのもそれだ。

 攻撃のための光線ならば、高熱で空気を膨張させた際の爆音が聞こえるはずだ。
 本人が言うには、地球を千切りにできるらしい。

 朝ごはんを食べているチェ連人が、そのことを知るはずはない。
 それでも彼らが暴れることはない。
 でも、喜んでいた雰囲気はどこからも消えていった。

 武志は悲しくなった。
「やっぱり後悔してるんだ」
 達美が言った。
 彼女が思いだすのは、カリス・カラー工場長。達美が自分の理解者で、パワフルだと信じたあの人に違いない。
 同じ街に住む人を見捨てられず、結局地域防衛隊に残ったあの人のこと。

「タケくん……」
 ふいに達美がつぶやいた。
 静かに、嬉しそうに、でも切なげでもある。

 結局、武志は思い知らされた。それは達美も同じだと思いながら。
 映画みたいに時間内に素晴らしい作戦を思いついたり、大ピンチで大々的にかっこいいセリフを吐く主人公なんて嘘だ。

「愛してる」

 結局、どんなに世界が変わっても、自分が変わっても、明日死んでしまう可能性は消せはしない。
 それでも効果が残る物があるとすれば、祈りを込めたこの言葉だ。

「愛してる。愛してる! 」

 できることは、誓い合うことだけ。
(もしかして、達海ちゃんはその事に気づいて、というより、そう言ってほしくて、僕をここに呼んだのかな? )

「愛してる。愛してる。愛してる! 」
「愛してる。愛してる。愛してる! 愛してる! 」

 言い合う「愛してる」の回数が増えていく。

「愛してる。愛してる。愛してる。愛してる! 愛してる。愛してる。愛してる! 」

 宇宙戦争に発展するかもしれない武力衝突の中で、可愛い競争が続く。