HAPPY BLUE SKY 後編5-3
マンションにこの2人が付いて来た。カッジュの手料理が目的だ‥またカッジュも4ヶ月ぶりに逢えたアーノルド主任・ヨル先輩だの為に料理を作る事にしたが、冷蔵庫にある食材では足りなくて近くのスーパーへ買い出しに行った。ヨルもそれについて行った‥マンションには俺とアーノルド主任だけが居た。ヤツは俺の顔を見てニタッと笑った。
「驚きました‥綺麗になりましたね!モンスターパワー・ガキんちょ・カッジュとは別人かと思いました。私服姿も若奥様風で、パーマー当ててメイクもちと変わったかな?元々キャシャだけど、ウエストが少し締まった感じがするかな。後‥胸も!ッテェ」
俺は手のひらでアーノルド主任の頭を叩いた。
「それ以上言うな。それはカッジュに対してのセクハラだぞ!」
「はい。先輩!でもマジで綺麗になりましたね。あのガキんちょ・カッジュが年相応に見えます。それに色気が出ましたね‥良い事だ。夫のドーリーさんもさぞかし嬉しいでしょうね。先輩!ファイン支部に帰ったらTOP様【会談】に出席していただきますよ。勿論、欠席なんて認めませんから。もう片割れはしませんから、それはご安心を」
また俺の顔を見て笑ったアーノルド主任だった。ハァァ‥ファイン支部に帰るのが怖いよ。俺‥任務が終わったら、カッジュを連れてロング・バケーションと称して逃亡したいと思った。でも逃がしちゃくれんだろう。うちのTOPはマジで怖いから‥これからの事を考えるとため息が出る俺だった。
それからまた1ヶ月が経った。敵が動き出したのだ。少佐と私に直にコンタクトを取るようになった。そういう事をするのは敵は相当に焦っていると言う事だ。少佐が得た情報の一部が敵側に取って、致命的と言えるシークレット情報だった。敵はカンパニーの出社・退社する時に、リーマン姿の少佐に接触を試みるが、少佐はそれを上手くカワし逃げ切っている。捕獲されたら自分の命も危ない。私にはもう外出をするなと言った。【捕り物とは違うんだ】と、何度も私にその事を言い利かせた少佐だった。
それからすぐに母国のファイン支部より応援隊員が入国した。入国した応援隊員の中には、第1TOP様・第2TOP様にまた数名の先輩達が入国した。今度のヤマは、私がエージェントになって一番大きいヤマかもしれない。これからの事を考えると身体が身震いした。家の中にいても、少佐が横に居ても身震いがした。少佐も段々と無口になり殆ど口を利く事がなかった。あの【暗号文字】で必要最低限の会話をするだけだった。
こんなの初めてだ‥こんな重圧の空気の中で【時】を待っている事が、こんなにも辛いなんて思わなかった。エージェント3年目の私は‥この大きなヤマを越すことができるのだろうか?自分の行動で少佐・TOP様・先輩達の足を引っ張ったらどうしよう。失敗したらどうしよう。不安な気持ちが私の胸を一杯にした。グラスを洗う手が震える‥震えが止まらない。私の手からはグラスが落ちた。
キッチンでグラスの割れる音が聴こえた。キッチンに入ると、カッジュが震える手で割れたグラスのかけらを拾っていた。
「も‥申し訳ありません。手が滑ってしまって」
また、カッジュは俺の顔を見てまた顔を青くした。今まで俺はこんなカッジュを見た事がなかった。今までの任務・捕り物で緊張する事はあったが、身体的に震えはなかったカッジュだ。以前の俺なら、ここで隊員の横っつらを張り飛ばしていたが、カッジュにはそれができなかった。
「ケガはないか?俺が片づけるからいい。ソファに座っていろ」
俺はカッジュの手から、グラスのかけらを取り上げた。そしてカッジュは、キッチンを出て行った。割れたグラスのかけら拾い集めて新聞紙で包んでダストボックスに入れた。拾い集めている間に、ケトルで湯を沸かした。沸かした湯で‥俺は戸棚にあるココアを入れた。カッジュが俺にいつもコーヒーを入れてくれる。今は俺がアイツを落ち着かせなければいけない。それが今の俺の上官としての役目だと思った。
「ココア飲むか‥ミルク一杯入れて、シュガーも入れたぞ」
カッジュが驚いたように俺の顔を見た。
「飲みなさい。体の震えが止まるぞ‥上官命令だ」
カッジュは俺から、マグカップを受け取りココアを口にした。
作品名:HAPPY BLUE SKY 後編5-3 作家名:楓 美風