2032年のHIT MAKERS STATION
私がひどく苦しめてしまった彼らが、メジャーデビューから数年でさまざまな偉業を成し遂げ、何度かトラブルに見舞われたことも知っていますが、それでも仲間割れも解散もなく活動しているのは、素直にすごいと感じています。
しかし、よく見てみると、他のメンバーに比べて随分若い子が、彼らとともに登場しました。
(あら?Y.M.&OD.(イェーツ・マーロウ&オドネルの略称です)は3人のはずだけど?)
しかも彼は、その顔つきや体型が、ある人に何となく似ています。
さらに驚いたのは、モリシーさんの後任の司会者が、
「『LOVE BRAVE』の皆さん、ようこそヒットメーカーズ・ステーションへ」
と挨拶したことです。「LOVE BRAVE」、彼らのインディーズ時代のバンド名です。私は何とも言えない気持ちになりました。
(「LOVE BRAVE」…?)
司会者が、若いメンバーに質問しました。
「君、今日が初めてのテレビ出演なんだって?」
「あ、はい。初めてです」
彼のはにかんだような笑い方は、やっぱり私のよく覚えている人に似ています。司会者は
「今夜はこのプログラムを楽しんでね」
と言うと、握手を交わしました。
「LOVE BRAVE」は大御所バンドのためか、彼らのトークは出演者の中でも最後のほうでした。
「新メンバーが加わったそうで」
司会者が切り出すと、ヴォーカルのフィルが答えました。
「はい。ギターのスティーブン・シュルツです」
紹介されたギタリストの名前を聞いた瞬間、私は思わず
「神様!」
と叫びました。この少年が健全にここまで育ったことへの感謝の念と、自分が原因で彼に悲しい、寂しい思いをさせてしまったことへの罪悪感という、二つの違う感情がすごい勢いで私の胸に押し寄せてきました。涙にむせいでいたので、スタジオでどんなトークが繰り広げられていたのか、ほとんど覚えていません。
トーク終了後、彼らはライブに移りました。何とか涙を拭いてテレビを見ると、ちょっと太ってしまったけれど歌唱力は「レベル100」と言うべきフィルの横で、上手に、また楽しそうにギターを弾くスティーブンが映りました。
(この子、まだ10代半ばなのに、何て奇跡的な腕前…!)
彼は、いろんな面で父親の遺伝子を受け継いでいて、まるで彼の父親を見ているみたい…。そんな思いが私の頭をよぎりました。
音楽業界を去った私が「LOVE BRAVE」に関わることは、恐らくもうないでしょう。でも、目立たないかたちで彼らを応援するつもりです。
どうか、ミュージシャンの仲間入りを果たしたうら若きスティーブンが、才能に溺れることなく、またさまざまな重圧に負けることなく、仲間たちとともに楽しく音楽活動を続けられますように…。そう祈らずにはいられませんでした。
作品名:2032年のHIT MAKERS STATION 作家名:藍城 舞美