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ありがたみ

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ありがたみ…

 

 パウダールームのロッカーを開けると、いつもフェイスタオルが並んでいる。
それもカラーのグランデーションがキレイだ。見た目も楽しませてくれる。
これは日々少し気をつけるだけで、この状態をキープできる。またソレが当たり前だと思っていた。

 雨の日、僕は仕事に出る前にフェイスタオルをシューズボックスの上に1枚置いて出勤する。
そのフェイスタオルは帰って来た時に使うのだ。雨で濡れたレインコートのまま‥パウダールームにタオルを取りに行ってみなよ。どうなる?

 廊下にはレインコートから雨水がしたたり落ちる。また廊下を拭かなければいけない。玄関にタオル1枚あるだけでこの煩わしさから逃れられる。よく考えているよ… 君は。

 また、キッチンには僕の好きな「紅茶」が並んでいる。それも種類ごとに分けている。並んだ紅茶達を見て… 
「今日は何飲もうかな」
並んだ紅茶達を見る。またその日の気分によって選ぶ紅茶も違う。これも袋に入れっぱなしなら‥選ぶのにもまた億劫になる僕である。

 家のあらゆる所で、機能的に物が配列され、配列されることによって快適な暮らしができる。こんな事をいつも考えていたんだね。君はそれも笑いながら僕に教えてくれた。

 僕はティカップボードのフォトフレームに少し笑って言った。
「陽子‥ありがとう。僕は君が逝くまでそんなこと考えた事もなかった。今‥1人になって思うよ。君のありがたみが」
僕はフォトフレームの妻の陽子に向かって手を合わせた。      end

 
作品名:ありがたみ 作家名:楓 美風