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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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HIT MAKERS STATION

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 7月11日、イェーツ・マーロウ&オドネルが、カナダの国民的音楽番組「ヒットメーカーズ・ステーション」(通称「HMS」)に出演しました。私も家事をひと休みして、テレビに向かい合うように置かれているソファーに座り、番組の始まりをじっと待っていました。

 エレキギターが奏でる印象的なオープニングテーマが流れる中、大物司会者チャーリー・“モリシー”・モリスさんが登場し、軽妙な一人トークのあと、今週の出演者が紹介されました。
 イェーツ・マーロウ&オドネルは、最後から2番目に階段を下りてスタジオに入ってきました。フィル・イェーツは白いシャツに黒レザーのパンツという衣装、ヒューゴ・マーロウは胸から脇腹辺りにかけて銀ラメの大きなクモの巣の模様のある、V字ネックの黒い長袖シャツにフィルと似たような黒レザーのパンツ姿で、髪には白メッシュを入れていました。ジミー・オドネルはクリーム色のハンチング帽をかぶり、白い半袖シャツに黒ベスト、濃い灰色のジーンズという出で立ちでした。3人とも非常に緊張しているのが、視聴者の私にも伝わってきました。

 モリシーさんが彼らに話しかけました。
「イェーツ・マーロウ&オドネルの皆さん、本日はようこそヒットメーカーズ・ステーションへ」
 そして、メンバー一人一人と握手を交わしました。フィル、ヒューゴ、ジミーは、
「ありがとうございます」
 と感謝の言葉を述べました。


 何組かのミュージシャンがトークとパフォーマンスを披露したあと、イェーツ・マーロウ&オドネルがトークをする番になりました。トークでは、緊張しながらもフィルが主に話しました。メンバー全員ノースベイ出身であること、レックスデールという町のライブハウスでのライブを見に来たジョアキム・ウッド氏との出会い、そして彼の主催するレーベルでの「一曲千回取り直し伝説」の真相が話題に上り、私もテレビの向かいでくすくす笑いました。
(そういえば、ティムもその話をしてたわね)

 トーク終了後、モリシーさんが
「それでは、ステージに移動してください」
 と言いました。彼らはステージに移動しました。ちょうどそのとき、息子のスティーブが「おっき」して、ハイハイで私の所に来て、「抱っこして」のポーズをしました。私は彼を抱っこしました。

 テレビには、アコースティックギターを抱えたフィルが画面の中心に映りました。私はそれを見て、はっとしました。そのギターは約1カ月前に彼が引き取った、私の夫の形見のギターなのです。歌い始めたフィルの姿を見て、私の胸は非常に熱くなりました。ティムの音楽は死んでいないと感じたからです。ヒューゴとジミーも、いつものライブよりは地味ながらも、全身でリズムを取りながら楽器を演奏していました。
 でも、正直なことを言いますと、彼らのパフォーマンスを見て、テレビデビューできたことへの喜びの反面、心のどこかで、もう1人のギタリスト不在を寂しく思っていました。もし「あの事故」がなければ、この番組に彼も出演したはず…。

 それでも、フィルがティムの形見を使って演奏してくれたことが、せめてもの慰めでした。

 放送時間の都合で、曲はショートバージョンになってしまいましたが、フィルは歌い終えると、目を潤ませて天井を見上げました。私には、彼の動作の意味がすぐに分かり、涙腺が壊れました。私が泣いているのにつられたのか、息子も泣き出しました。 ― 私たちは、しばらく2人で泣きました ―


 やがて番組のエンディングの頃、私は息子を優しくトントンしながら画面を見ていました。視聴者に向かって手を振るイェーツ・マーロウ&オドネルを見届けたあと、私はチェストの上に置かれた、天使が飾るフレームの中の写真に目を向けました。
(ねえティム、一緒に喜んで。あなたの仲間たちは、夢を一つかなえたのよ)
 彼が、優しく笑ったように見えました。


                                 ― Fin ―
作品名:HIT MAKERS STATION 作家名:藍城 舞美