満たされぬ心
6
気がつくと‥私は家の玄関の前に居た。どうして戻ってきたのかしら?私は電車に乗っていたはずなのに。また老人に声をかけられて小部屋にいたはずなのに‥
「何で家に戻ってきたの?私」
その時だった‥また頭の中から声が聞こえたのだ。
聞こえた声に‥私は軽くうなづき玄関のドアノブに手をかけた。
それから‥2ヶ月の時が流れた。
季節は春になっていて‥桜が咲く季節になっていた。
私はスーツを着て片手には社名の入った封筒を持っていた。所用で外出をして職場に帰る途中だった。帰り道にこの桜並木を見つけたのだ‥
桜の木を見上げ‥枝に顔を少し近づけた私だ。
「‥今から咲くんだね。私と一緒だね」
私の脳裏には1ヶ月前の事が蘇った。
玄関を開けたら俊樹が立っていた。俊樹の顔は青白かった‥
「俊樹さん‥お話があるの。私‥決めたの」
俊樹の目をまっすぐに見つめて、話し出した私だった。
「私‥あなたと別れます。もうあなたの心は私にはない‥また私もあなたにもう心が残ってないことがわかったわ。そんな二人が一緒に暮らすことはおかしいでしょう。離婚しましょう。麻里子さんと幸せになってね。私も頑張って幸せを見つけるわ」
俊樹は青白い顔を一層青白くさせて私を見たが‥俊樹の口が開く前に私は言った。
「さようなら‥俊樹さん」ドアを閉めた私だった。
私は少し背伸びをして、小枝のつぼみを覗き込んだ。
「頭の中に聞こえたのよね‥前を向かなきゃ何も始まらないよって。だから今‥私はここに居るのよね‥アッ」
その小枝のつぼみの中に‥ひとつだけ花が咲いていたのを見つけて声を上げた。
「この花達と一緒だね。今は一つだけしか咲いていないけれど。今にたくさんの花をつけるのね。私もそうならくなっちゃね。頑張るね‥あなた達が頑張ってるように」
私は封筒を持ちなおして‥空を見上げた。
「さて!帰りますか‥頑張って早く仕事覚えなきゃね」
歩き出した私だった。
完