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俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第一章・第二話】

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この日の放課後。校門前で帰宅の途につこうとしていた大悟と楡浬。


『ぷにゅぷにゅプシュー、ヒンニュ。』


大悟と楡浬の携帯が同時に鳴った。


「ずいぶん嫌味な呼び出し音に聞こえるのは、気のせいかしら。着信音って、普通は着信側が設定するんだけど、これだけは送信側が設定してるのよね。」


「それだけ重要な知らせだということなんだろうな。」


大悟の冷静な顔をチラ見して、楡浬はわずかにホッとしたような表情で門の外に視線を移した。


「なんだ、この魔法伝家協会からの通達内容は!」


そのメール内容は以下の通りである。
『愛しの大ちゃんへ。桃羅ちゃんから攻められたら、ママが《桃羅ノイズキャンセラー》送るからしっかり、てーそー守ってね。ごちになるのはママなんだからね。ところで、政府から、饅頭人を倒すように頼まれちゃった。やり方は楡浬ちゃんとよろしくでいいから。でもてーそーはガードだよ。解決よろしくね。』


「アタシのはこれよ。」


『大悟ちゃんと同文に付き略。てーそー奪ったら殺しちゃうから気をつけてね。』


「まったくいつもながらのトンデモメールだな。」


「でも実際、どうやって饅頭人を倒すのか、わかってるの?ア、アタシはやりたくないんだけど。」


大悟はわずかに震える楡浬の唇を見逃さなかった。開花前の桜の蕾も負けて咲くのを断念してしまうと言っても決して大げさではない。大悟ならずとも見惚れてしまう。美を愛でるのは人間の本能であり、他の動物よりも人類が進化できたのは、美を感じる繊細な心があるからである。


「やっぱり饅頭が苦手なんだな。甘くてうまいのに不思議だ。甘いという味覚がどれだけ人を和ませることか。」


「それは気のゆるみを誘発するわ。そんなことだからだらしないのよ。堕落の始まりは甘さからよ。大悟は堕落フラグがずっと立ち続けるんだろうけど。とにかくウサミミ族には饅頭はダメなのよ。」


饅頭人の倒し方がわからず戸惑いのふたり。そこへ桃羅が大悟へ営業スマイルを振るまいながら姿を見せた。


「モモがお兄ちゃんがサービスしてくれたら教えちゃう。魔法伝家に伝わる古今悪禍(わか)集の管理はモモが担当なんだから。」


古今悪禍集という名前の秘伝書。いかにも悪いことが書かれてそうな書物であるが、その中の『饅頭人の条』に倒し方がある。


「サービスすればいいんだな。サービスと言えばパンチラガン見。教師の『ここテストに出す宣言』のように小出しはダメだぞ。さあやってみろ!」


「そ、そんな破廉恥なこと、急に言われても。モモはまだ14歳なんだよ。花も恥じらう乙女なんだよ。」


「どこが破廉恥なんだよ。いつもの自分の行動を反芻してみろ。」


普段は自分でパンチラする桃羅だが、いざ逆に攻められるとパンチラできない。人間の心理は複雑であり、単純でもある。
桃羅は仕方なく、古今悪禍集を読み上げる。


「まずは、兄は妹を力強く抱きしめる。髪を優しくかき撫でる。背中を赤ちゃんに触れるように優しく擦り、軽く爪を立てていじる。そして腰に手を当てて、ゆっくり愛撫する。からだの火照りに反応して、妹の気持ちが高ぶって、熱を帯びてきたら、大胆に唇を奪う、愛してるという言葉を耳に吹きかけながら。」


「官能小説じゃないんだからな。」


「うん、そうだよ。情感こめなくてもいいから、からだだけ貸してくれれば。」


「からだが目当てなのかよ!って、そこじゃない。とにかくこれで許せ!」


大悟は桃羅の頭を撫で撫でした。


「お、お兄ちゃんに実の、本当の、リアルに血のつながる純潔妹が犯された~!」


桃羅は血が吹き出しそうなくらいに顔を真っ赤にして、窮鼠のように学校の周囲を三回走り回り、大悟のところに戻ってきた。


「お兄ちゃん。モモを慰みモノにした以上、お嫁にしてもらうしかないよ。妹を犯してはならないという刑法の規定に反したから、死刑になるか、民法を超法規的に適用して、結婚するしかないよ。『女未来』と書いてお兄ちゃんの未来には『妹』が『来』るんだよ。」


そう言いながらもすっかり満足げな桃羅。大きな瞳が涙目になっている。


「バカなこと言ってるんじゃない。早く続きを読んで饅頭人の倒し方を教えろ。」


桃羅の説明ではこうであった。
『大悟たちふたりを横たえる。顔と顔が上下反対になるようにからだをくっつける。ふたりは床で向かい合う。』


「以上で説明終わりだよ。」


「「そんなことできるか!」」



大悟と楡浬は抜き打ち小テストに反発する生徒と化した。


(これは狙い通りだよ)と桃羅はほくそ笑んだ。


「古今悪禍集に倒し方なんて載ってないんだよ。ヒントは密着だよ。おんぶズマンなんてもってのほか。」


「って、載ってるんじゃないか。」


「あとはお兄ちゃんが考えてよね。エロ禁止だよ。」


「言われてもやるか!なあ、楡浬。」


「でも使命のためなら、ちょっとくらいは。って、なんでもないわ。」


こうしておんぶズマン制度は始まったのである。

魔法伝家協会からの饅頭人発生通報を受けて、『よし、オンブズマン制度で饅頭人退治だ。』と、とある学校に乗り込んだ大悟と楡浬。ふたりとも制服姿である。楡浬のミニスカートの足が白くて眩しい。
と言っても饅頭人が特定できているわけではない。見た目はあくまで一般の生徒である。


「饅頭人が『がああ』とやってくるなら簡単だが、やっつける前に、見極めをしないといけない。」


「『現場に急行せよ』はいいけど、普通の女子高生しかいないけど。そうね。何の変哲もない、モブ女子生徒だわ。アタシとは月と酢豚ね。」


「なんか、比較の対象違わなくね?まあいいけど、どこに饅頭人がいるんだろう。」


 校内を睥睨している大悟。とりあえず、近くにいた女子高生を無作為にピックアップ。さらに悲鳴を上げる女子高生を捕まえると抵抗されて、結果的に押し倒してしまい、たまたま唇が合わさった。
しかし、大悟はキスしたことがないので、キスの味がわからない。


「キスってこんなに甘いんだっけ?」


チラリと楡浬の方を見る大悟。


「誰かとキスしないと饅頭人の見極め方法がわからないんだけど。どうしよう?」
「ど、どうしてアタシを見るのよ。そ、そんなこと、天地がひっくり返ったって、天地無用なんだからね。」


「仕方ないなあ。どうせこれはキスカテゴリーじゃないんだから、気は進まないけど、桃羅にでも手伝ってもらおうかな。きっと喜んでやってくれるような感じだもんな。母さんでもいいか。」


『シュバ!』『シュバ!』という音とともに、『キス・あ~ん』『キス・あ~ん』という女性の甘える声がふたつ。


「桃羅、母さん!?」


「もうお兄ちゃんったら、積極的なんだから。このシスコーン!」


「もう大ちゃんったら、大胆。でも母さんの初めて、あげる。」


「だれが初めてだ!父さんの立場はいったい。てか、ふたりともどこからワープしてきた?今のは冗談だから、帰ってくれ。」


しぶしぶ桃羅と桃羅に瓜二つの大悟母は消えた。この間、わずか二秒。