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ミルキー・ウェイ(掌編集~今月のイラスト~)

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「良いよ、詩織ちゃん、綺麗だよ」
「軽く微笑む感じで……そうそう、可愛いよ」

 カメラマンのモデルに対する賞賛の言葉は、半分は業務上必要なトーク術だとは百も承知している。
 しかし、人気上昇中のグラビアアイドル・詩織にとって、喜彦から受ける賞賛の言葉は魔法の力を持っている。
 カメラマンのモデルに対する賞賛の言葉は、半分は業務上必要なトーク術だとは心得ている。
 しかし、新進カメラマン・天野喜彦は心からの賞賛を詩織に贈っているのだ。

 詩織は初めての撮影で喜彦に撮ってもらった写真が週刊誌のグラビアに採用されたのをきっかけに、メディアへの露出が増えて来ている。
 喜彦も、まだ無名だった詩織を撮った写真がきっかけでカメラマンとして認められ、仕事も順調に増えて来ている。
 そしてこのコンビはその後も幾度となく共に仕事をし、その度に互いに知名度を上げて来ている、Win-Winの理想的な関係だ。
 しかし、詩織が喜彦のカメラの前で輝くような笑顔を見せられるのは、単にモデルとカメラマンとして相性が良いからばかりではなく、喜彦が詩織を魅力的に撮れるのも単にカメラマンとモデルとして相性が良いからばかりではない。

 詩織が初めて水着の写真を撮られる時は随分と緊張し、動きも表情もぎこちなくなってしまっているのが自分でもわかった。
 一旦カメラを置いてその緊張をほぐすように気を落ち着かせ、楽しい会話で気持ちをほぐしてくれたのが喜彦、それ以来、詩織は一回り年上のこのカメラマンに好意を抱いている。
 
 まだ無名だったとは言え、喜彦が初めて詩織に会った時、この娘は必ず売れると直感した。
 清楚な雰囲気と程よく肉感的な肢体。
 目元のほくろは少し幼さが残る顔立ちにアンニュイなアクセントを加え、唇の下のモンローを思い起こさせるほくろは官能的なニュアンスを醸し出す。
 本来アンバランスなものが詩織の中で絶妙なバランスを保っていると感じたのだ。
 初めての撮影ではガチガチに緊張しているのが手に取るようにわかった、緊張をほぐそうとカメラを置いて並んで他愛もない話をしている時、不思議なほどに気持ちがしっくりと合うことに驚いた。

▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽

 今回の撮影も順調だった。
 詩織は心からの輝く笑顔を喜彦のカメラに向け、喜彦はその笑顔の中に更なる魅力を見出した瞬間にシャッターを切れば良かったのだ。


「お腹、空かない?」
「もうぺこぺこです」

 撮影はプールの営業が始まる前、早朝から行った。
 まだ昼食には早い時間帯だが、早朝からの撮影に備えて詩織は朝食を摂っていないのでは? と思ったのだ。
 そして、この撮影が終われば詩織はマネージャーの車で次の仕事場に向かい、喜彦も助手と一緒に事務所に戻らなければならない、その前に少しでも一緒にいたいとも思った。
 それは詩織も同じ気持ちだった。

「あ、笹……」
「そうか、今日から七月だもんな」
 マネージャーや助手も交えた食事を終え、プールサイドのレストランを出ようとすると、丁度七夕飾り用の笹が運び込まれて来たところ。
「よろしかったら最初の短冊を飾って行って下さい」
 一人一枚づつ渡された短冊に思い思いの願い事を書いて笹に吊るした。
 まだスカスカの笹なので、バランス良くバラバラに。

「じゃあ……また撮ってくださいね」
「ああ、詩織ちゃんの撮影ならいつだって喜んで」
 そう挨拶して駐車場で別れたが、二人はそれぞれの短冊に書かれた願い事を知らない。

(好きな人が私の気持ちに気づいてくれますように……)
(彼女がいつか僕だけのものになってくれますように……)

▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽

 三年後、川手詩織は突然の引退を発表した。
 理由は天野喜彦との結婚。

 二人は最初から見えない糸で繋がれていたんだ。

 何故かって?
 天野と川手……アマノガワデ……。
 下の名前まで喜『彦』と詩『織』だったからね。
 これを運命と言わずに何を運命と言うんだい?


(終)