至極当然
「わ…私、け、消されちゃうんですか?」
「…有り体に言ってしまえば、そういう事です」
当然の様に とんでもない事を言う職員に、私は声を荒げた。
「それって、殺人じゃないんですか?」
「お客様と全く同じ肉体や記憶を持つ個体が 既に転送先に存在しますから、そういう事ではありません」
「─ でも、転送元の私は…消されてしまうんですよね?」
「転送とは、そう言うものですから」
「な、何故…オリジナルの私が、き、消えないと…いけないんですか?」
「失礼ながら…既にお客様は、オリジナルではございません」
「ど…どう言う意味ですか?」
「お客様が転送装置を利用して頂いたのは、今回が初めてでは ありませんよね?」
「…」
「つまり…1回目の転送で、本来的な意味での お客様のオリジナルの存在は、既に消滅している事になります」
困惑して、私は沈黙する。
スピーカーからは、慇懃な声が流れ続けた。
「転送前でも転送後でも、お客様の肉体や記憶 癖に至るまで、まったく失われては いません。
それが証拠に、今まで転送装置をご利用頂いた後、お客様には 何ら不都合は無かった筈でございます。
たまたま今回、転送前と転送後の存在を意識したため、混乱しているだけですよ。お客様──」
とにかく何か言い返さないといけないと思い、口を開こうとする私。
それより先に、事務的な声が告げた。
「お客様。只今 準備が整いましたので、転送処理を再開させて頂きます。目を お閉じ下さい。」
有無を言わせず、転送装置が起動を始める。
私の存在を、消すために。。。