セ・ン・ミ・ン!
時は22世紀。日本では「選民制度」が導入され、「選良《エリート》審査会」と呼ばれる日本政府直轄の機関が存在する。そこでは個人の能力・技術が審査され、その能力値が高ければ高いほど、社会的地位と共に名誉を確立し、逆に低い者は冷遇され、「社会不適合者」の印を押されることになる。この話は「社会不適合者」の印を押された少年・少女の青春下克上物語である。
<第1話 「幼なじみ」>
日本に「選民制度」が導入された年月日に「日羽 昇《ひわ のぼる》」は生まれた。当時、この制度が施行されると国民は政府に反感を抱き、中には暴動まで起こす者もいた。しかし、政府はこれを金や権力をもってして黙らせ、政治を円滑に進めた。そうした歴史のなかで今に至るというわけだ。
「私立緑丘《みどりがおか》高校」 それが昇が通う高校である。無論「選民制度」によって、「エリート」と「社会不適合者」の区別を図るため、学校や公共施設にも制限が布かれてしまう。しかし、この学校は「社会不適合者」の印を押されてしまった生徒たちを分け隔てなく歓迎する学校であり、国立や市立に負けず劣らずの人気高なのである。
昇「ふぅ、やっと終わったぁ」
??「全く..付き合わされる身にもなってよね!」
昇「いや~毎度毎度すまんね、凛。」
凛「本当にそう思ってるなら宿題やってきてよ・・・」
彼女は「涼風 凛《すずかぜ りん》」。昇とは中学校からの幼馴染である。薄く茶色ががかったショートヘアで、面倒見も良く中々の容貌の持ち主だ。ゆえに一部の男子生徒からは人気がある。そして昇のことを・・・
昇「そう言うなよ。俺はお前とふたりきりになるためにやってんだからさ」
凛「えっ///ほ、ほんと?」と顔を赤らめる凛。
昇「冗談だよ。さ、帰るとしますか。」と帰り支度をはじめ、席を立つ昇。
凛「ほんっと最低!もう昇ことなんて知らない!」と拗ねる凛。
昇は「可愛い奴だ」と心の中で思い、どう凛の機嫌を直すかを考えながら帰る2人であった。
学校を出ると、昇が凛を誘い商店街方面へと向かっていく。昇たちが住むこの地区は、「選民制度」による差別が少なく、誰でも歓迎するやさしい町で、多くの人々がここに訪れるのだ。
商店街に入ると、昇は行きつけのたい焼き屋で、「つぶあん入りのたい焼き」を凜に奢り、凜の機嫌を直した。なぜ「たい焼き」かというと、凜が「つぶあん入りのたい焼き」が大好物だということを昇は知っていたからだ。屋台の前でたい焼きを美味しそうにほおばる凜を見て、ホッとする昇であった。しばらくすると、
凜「じゃあ、帰ろうか?」と食べ終わり、上機嫌になった凜。
昇「おう!...とその前におじちゃん、トイレ貸してくれ。」
おじ「あいよ。・・・凜ちゃん少しの間、店を見ててくれないか?買い忘れがあってなぁ。」と凜に頼み込む。
凜「もちろん!任せてください。」と快く引き受ける凜。
おじ「悪いね、店を見てるだけでいいからさ。お礼は弾むよ!」と言って買いだしに出て行った。凜はそのお礼を心まちにして店番を始めた。
しばらくすると、いか~にも柄の悪そうな2人組が商店街をうろついている。その2人組は凜が店番をしていることに気がつき、こちらへとやってきたのだ。
男1「おっ!可愛い子いるじゃん」
男2「看板娘って奴?にしても可愛いな」
凜「・・・」
男1「ねぇ、こんなとこの店番より俺たちと一緒に遊ぼうよ」
男2「いいねそれ!ほら、行こうよ」と強引に凜の腕を掴み、連れて行こうとする。
凜「やめてください!離して!」と抵抗する凜。
男2「いいじゃん、行こうよ」と尚も腕を引っ張る男たち。すると・・・
?「あ~あ、派手にやっちゃって~もう」と言う声が響き渡る。
男1「あん?誰だ、お前?」
昇「俺?俺はそいつの幼馴染だよ。」
男1「幼馴染?じゃあお前はこの女を守るために出てきた馬鹿ってことか?そりゃ笑えるね、ハハハ」と今度は男の汚い笑い声が響き渡る。
昇「いや、ちょっと違うな。俺は守らない、いや守る必要がないんだよな、これが・・」
男1「じゃあ何しに出てきたんだよwww馬鹿かよwww」
昇「そりゃあ、あんたに逃げることを勧めるためだよ。」と言って男1の後ろを指す昇。
男1は昇が指す方に目を向けると、そこには・・・なんと、男2が地べたに腹を抱え、うずくまっていたのだ。男1はそれに驚き、そばに駆け寄る。
男1「おい、どうした?しっかりしろ!」と声をかける。
男2「うぅ...うぅ...」とまともに受け答えできない男2。
すると、男1はあることに気づいた。
男1「あの女、どこにいった?」と言って周りを見渡すと、
凜「こ・こ・で・す・よ」
背筋が凍るような声色に思わず、男1は腰を抜かしてしまう。
昇「だから逃げたほうが良いって言ったんだけどな・・・」と男1に声をかける昇。
昇「ウチの幼馴染、小さい時からずっと空手やってきたんで、かなり強いんですよ。」
昇「俺も中学生の時、こいつに泣かされた記憶があるんで。」
昇「だから全てのものに対して甘く見ないほうが身のためですよ、ごろつきさん。」と言葉を投げ捨てた。
昇「それでもまだやるってなら・・・」
凜「パキッパキッ(指の骨を鳴らす音)」
これにはさすがの男1でも怯え、うずくまってる男2の肩を持ち、その場を立ち去った。
昇「ふぅ、一件落着ってとこかな?」と凜に尋ねる。
凜「うん..でも昇に助けてもらいたかった、かな?・・」とほんの少しだけガッカリする凜。
昇「俺の助けなんていらないだろ?お前十分強いし。」と返す昇。
凜「そうだけど、そうじゃなくて・・・」
昇「?」
凜「あ~、も~う今のなし!忘れて!」とひときわ大きな声で言う凜。
昇「あ、あぁ..どうしたんだ?」と再び尋ねる昇。
凜「いいからもう、ほら帰ろうよ!」と忘れさせるように昇を急かす凜。
昇「でもお前、店番頼まれたんじゃないの?」
凜「あ!そうだった。」と思い出す凜。
昇「おいおい、しっかりしろよ・・・」と呆れる昇。
凜「う、うるさい!色々あったんだからしょうがないじゃん!」とまたしても凜は拗ねてしまった。
昇「悪かったよ、凜。愛してるから許してくれ。」と口にする昇。
凜「なっ!?そういうこと軽々しく言わないでよ//」とまたしても赤面する凜。
傍から見れば恋人のようなやりとりをしながら、たい焼き屋のおじちゃんが帰ってくるの待つ2人であった・・・。