聞いてくれるよね!?
「明日1日で、4教科も あるんだよ!」
先に居間に入った綾さんは、床に大荷物を降ろすと、乱暴にソファに身を預けました。
「でも、一夜漬けでは…そんなに覚えられないし…」
「─ で、分身の魔法を 掛けてもらいに来た訳?」
向かいの席に移動する水無月さんに、大きく頷いてみせる綾さん。
「手分けして2教科づつ勉強すれば、何とか出来ると思うんだ。」
勢いを付けて上半身を起こし、身を乗り出します。
「そういう魔法…あるんでしょ?」
水無月さんは、綾さんに視線を向けたまま、ソファーに腰を降ろしました。
「分身は、何処で勉強するの?」
「─ 姉さまの家!」
「…登校は?」
「2人一緒だと変に思われるから…早朝にでもバラバラに行って、片方は出番まで 何処かに隠れる。」
「綾の学校、制服だったよね?」
「予備のを、持って来てる!!」
綾さんが幾分得意げに、足元の荷物を指し示します。
しばらくの沈黙。
ゆっくりと姿勢を変えた水無月さんが、綾さん耳に口を近づけます。
「用が済んだ分身には…消えてもらうのが理。」
「?」
「分身は、魔法で本人を完全にコピーしたもの…」
戸惑いの表情を浮かべる綾さんに、水無月さんは淡々と話し続けました。
「─ オリジナルと分身の…見分けは付かない」
「…え?」
「自分が、消されてしまう可能性もあるけど…良い?」
体を前に乗り出すために、半ば浮いていた綾さんのお尻が、ソファーに落ちます。
「ぶ、分身の魔法の前に…ど、何処かに印を付けても?」
「印を付けた状態で…完全コピーされるから、意味がない」
「じゃ、じゃあ…あ、合言葉を決めておくとか!」
「記憶も完全コピーされるから、分身の方も、当然知ってる。」
綾さんの体は、ソファーの奥にジリジリと後退しました。
「どちらが消えるかは…遺恨を残さない様に、当事者同士に決めて貰う」
「ど…どうやって?」
「─ 話し合い。それで決着が付かない時は…ジャンケンなり、くじ引きなりで。」
背中をソファーの背に張り付けた綾さんに、水無月さんが顔を近づけます。
「で、どうする?」
「1人で4科目分…試験勉強する。。。」
作品名:聞いてくれるよね!? 作家名:紀之介