早熟な、将棋の天才たち
天才集団の中でも、極めつけの天才棋士と持て囃されたのが、14歳にして、難関の3段リーグを一期で突破し、公式戦において、まだ負け知らずで、連勝街道を邁進中の、スーパー中学生である。
それも、並み居る若手強豪、ベテラン棋士に対し、一度も王手を掛けさせずに、勝ってしまうのであった。
何せ、若手強豪は、新調のスーツ姿での対局、ベテラン棋士に至っては、羽織袴に、扇子といった、古来からの、しきたりである対局姿なのだが、その、スーパー中学生は、義務教育の身とはいえ、
学生服に身を包み、目の前に現れるので、これは公式戦か、それとも指導対局かと、一瞬考え込む、先輩棋士達もいるほどであった。
しかし、試合内容はというと、まあ、戦に例えるならば、
竹刀と真剣の勝負のようなもので、序盤で僅かな優位を築
くと、一気に踏み込み、一刀両断にしてしまうほどの、
恐ろしくも、圧倒的な強さであった。
しかし、やがて、彼に恐るべき相手が・・・・・。
小学生でありながら、難関の3段リーグを一期で突破して
まだ、連勝中のスーパー中学生の前に現れたのであった。
やがてあるテレビ局の企画により、急遽、対局する事になった。
やがて、恐ろしいほどの、報道陣をかいくぐり、先に現われたのは、スーパー中学生であった。そこへ現れたのが、先に紹介した、スーパー小学生である、が、なんと、ランドセルをしょっての対局場入りであった。小学生が、ランドセルを担ぐのは、自明の理なのだが、この、神聖な対局室での光景は、異様で、彼の緻密に計算し尽くされた、したたかさを、感じさせずにはいられなかった。
さて、彼は、ランドセルをおもむろに置き、中から、筆箱と下敷きを取り出して、さも、学校での授業でも受けるかのような仕草で、静かに右脇にある、お盆の中に置くと、
この一連の仕草をチラッと見ていた、スーパー中学生は、
得も言われぬプレッシャーを感じた。
そして、試合内容はというと、まあ、戦に例えるならば、
真剣と、鉄砲の様なもので、序盤で僅かな優位を築くまでもなく、全く、踏み込まずに、遠方彼方より、急所を一撃で撃ち抜いてしまい、あっという間に、スーパ小学生が勝利を収めてしまったのであった。
一瞬の沈黙の後、すべてのメディアは、嵐が過ぎ去ったかのように、スーパー中学生のもとを離れ、瞬く間に、スーパー小学生を取り囲み、フラッシュを、浴びせ続けた。それは、まさに、次のヒーローが誕生した瞬間でもあった。
取り残されたスーパー中学生は、動揺しながらも、これからは、静かに、日々、将棋に打ち込むことができると、安堵しながら、これからの、非日常の生活が待っているであろう、スーパー小学生の今後を、気遣っていた。
やがて、彼「小学生」が、公式戦で連勝を重ねだし、注目を浴び始めていた頃、またまた、3段リーグに、超新星が
現われたのであった。
幼稚園児でありながら、難関の3段リーグを一期で突破し
て、まだ連勝中のスーパー小学生の前に、突然現れたのであった。そして、あるテレビ局の企画により、急遽、対局する事になったのである。
やがて、恐ろしいほどの、報道陣をかいくぐり、先に現われたのは、スーパー小学生であった。そこへ現れたのが、先に紹介した、スーパー幼稚園児であるが、なんと、スモックという、頭からすっぽりとかぶる例の、黄色い園児服を着て、頭には、可愛らしい黄色い帽子をかぶっての対局場入りであった。幼稚園児が、スモックを着るのは、自明の理なのだが、この神聖な対局室での光景は、異様で、彼の緻密に計算し尽くされた、したたかさを、感じさせずにはいられなかった。
さて、彼「園児」は、スモックを着たまま、首から下げた、水玉模様のカラフルなバッグを下すと、中から、塗り絵セットを取り出して、さも、幼稚園での、お授業でも受けるかのような仕草で、静かに右脇にある、お盆の中に静かに置くと、この一連の仕草をチラッと見ていた、小学生は、得も言われぬプレッシャーを感じた。
しかし、試合内容はというと、まあ、戦に例えるならば、
鉄砲と、風船のようなもので、僅かな優位を築くまでもなく、全く、踏み込まずに、遠方彼方より、急所を一撃で撃ち抜いて、あっという間に、園児の王様を守る駒達を、殆ど平らげたのであったが、何と、逃げ出した王様を、あと一歩の所で、捕えそこない、見失ってしまった。焦る中、ついに持ち時間は切れ、とうとう、スーパー小学生は投了に追い込まれたのである。
そして、駒台に手をやり、深々と頭を下げ、投了の意思表示を示した途端、今度は、将棋盤の裏から、風船に乗った園児の王様が、ふわふわと出てきて、もともとの定位置にぴょこんと、鎮座したのであった。
不審に思った小学生が、将棋盤をひっくり返すと、何とそこには、将棋のマス目が、描かれており、此処に避難していたのであった。
というのも、彼「園児」は普段、お遊戯の時間には、いつもかくれんぼをして、遊んで居たので、これが、将棋にも、通じるものがあり、逃げの一手に、光るものがあったのである。
これが正当なものかどうか、大議論の末、結局、理事会役員全員一致による採決により、正当性が認められ、直ちに園児の勝利が、確定したのであった。これには、裏話があり、ここで、スーパー幼稚園児がヒーローになる事で、日本中の、全てのメディアから脚光を浴び、将棋界に、莫大な放送権料や、関連グッズの販売、また、今まで将棋界を支えてくれた、町道場や、零細将棋教室、近くのお蕎麦屋さんに至るまで、一気に潤うことになり、禁じ手ではあるが、泣いて馬謖を斬るが如くの、深い読みに裏うちされた、鬼の英断であった。
やがて、一瞬の沈黙の後、すべてのメディアは、嵐が過ぎ去ったかのように、スーパー小学生の元を離れ、瞬く間に、スーパ幼稚園児を取り囲み、フラッシュを、浴びせ続けた。それは、まさに、次のそのまた次のヒーローが、誕生した瞬間でもあった。
取り残されたスーパー小学生は、動揺しながらも、これからは、静かに、日々、将棋に打ち込むことができると、安堵しながら、これからの、非日常の生活が待っているであろう、スーパー幼稚園児の今後を、気遣っていた。
作品名:早熟な、将棋の天才たち 作家名:森 明彦