フィラデルフィアの夜に14
それは街の生け垣の下にありました。
それは針金を卵形に丸めたもの。
誰にも気付かれず、転がっています。
転がっています。
ただ、転がっています。
そのはずでした。
ころん。
歩道に、卵形の針金が転がります。
人々の雑踏は何のためらいも無しに踏み潰そう、そうした時。
足が止まります。
ひぃ、と声と共に。
どこかしこに、止まる足と声が。
足下にあるのは、針金。卵形の。
でも、そこから伸びるのは、釘。
鋭く、天を向く、釘。
まるで卵から生まれ出るように。
そんな卵が、いつの間にか歩道に転がり散らばっていたのです。
それらは誰かのいたずらと、捨てられ雑踏が続くも。
ひぃ、と声。
またしても卵。伸びる大きな釘。
いくら拾っても、転がっている卵が。
鋭い釘と供に。
ある男が、生け垣の下を覗く。
そこにはびっしりと、卵。
生け垣の中まで、空間なく積み上がる、卵。
無機質な、命も、優しさも感じさせない、針金の。
少しの隙間も無く巻き付けられ作られた卵が。
長い、鋭い、釘を生むかのように、伸ばして。
そして男ははっきりと見たと言います。
一つの卵から、もう一つ、卵が産まれてきたと。
悪意を持ったような釘を突き出して。
ある日、誰かが野鳥の巣を落としたと言います。
その時、卵が儚く砕けたそうです。
あの生け垣の辺りで。
生け垣の下には今、何もありません。
毎日点検され、きれいなままになっています。
ただ針金が、誰かが掃き集めるかのようにいつも集まっていきているのです。
ある日の事、誰かの足が止まり、声がします。
ひぃ、と。
作品名:フィラデルフィアの夜に14 作家名:羽田恭