陰陽戦記TAKERU外伝 ~拓郎編~
厄介な敵だ。
遠距離には陰の氣弾、接近戦には爪の斬撃、おまけに伸縮自在の尻尾と固い外殻…… 状況は奴の方が圧倒的に有利だ。
せめてあの頃みたいに玄武がいて鎧化出来れば…… いや、せめて武器だけでもあって欲しかった。
玄武は戦う時にはハンマーになってくれて固い敵に有効だった。その玄武はもういない、僕に力を貸してくれる事は無い。
いや、無い物ねだりをしても仕方が無い、せめてあいつの武器を1つでも…… いや、頑丈な装甲さえ破壊できれば何とかなるかもしれない。
そんな事を考えている時だった。
「うっ!」
僕の体から力が抜けて行くのが分かった。
右手を見ると掌から溢れている僕の陽の氣が消えかけていた。
どうやらタイムリミットが来たらしい、すると鬼は再び僕に向かって攻撃を仕掛けて来た。
『ガアアッ!』
鬼は再び陰の氣弾を放って来た。
僕は慌てて腰を上げると手術台の後ろに隠れた。
鬼はそのままお構いなしに攻撃を続ける。
この地下手術室の、僕がいる方の面積分の壁や床が爆発して床が振動を伝わらせる、鬼の攻撃により機材が倒れて道具が床に落ちた。
爆音が轟く中、僕はどうすればいいかを考えた。
「どうすりゃ良いんだ?」
僕は頭を掻いた。
もう弱点なんか探してる場合じゃ無かった。
だけど考えれば考えるほど袋小路に行き詰る、頭がロクに回らない。
「くそっ、先輩ならこんな事には…… いいや、ダメだ!」
僕は首を振る。
先輩は先輩だし僕は僕だ。
あの人はどんな状態だって諦めない、僕だって諦めてないし諦めたくない、だけどどうすれば良い?
そんな事を考えていた時だ。僕の左手にある物が当たった。
それはさっきの衝撃で床に落ちたハンマーだった。
僕は思いだした。
法力は武器や道具に込める事が出来る、先輩は鬼切丸って言う刀、石動さんの場合は義手…… 僕は玄武の宝珠に直接陽の氣を注ぎ込んだ事で玄武がハンマーになってくれた。
あの時の感覚は覚えてる、実際右手に力を入れてみると陽の氣がハンマーに伝わって行く…… けど。
「ダメだ!」
僕は陽の氣の集中を中断する。
こんな小さなハンマーじゃ倒す事は出来ない。
並大抵の攻撃じゃ奴はビクともしないだろう、鬼の装甲を砕いた直後に止めの一撃を与えれば何とか倒せるかもしれないけど、今の僕には到底無理だった。
せめて一撃で破壊できる位巨大な武器が欲しかった。
「斬撃と打撃が同時にできれば…… ん? そうか!」
僕は閃いた。
するとどうだろう、陰の氣の爆音が止まり、異様な気配を感じて上を振り向いた。
そこにいたのは拘束手術台を飛び越えた鬼が僕の頭上に浮かんでいた。
作品名:陰陽戦記TAKERU外伝 ~拓郎編~ 作家名:kazuyuki