強さとは
言われたことに自覚があって彼はひどく落ち込んだが、言われたことに自覚があって彼は肉体改造を決意した。
頼りにできる筋肉。口だけでないのを証明できる筋肉。かよわい女の子を守ることができる筋肉。そういう筋肉を得るために、彼は仕事の後ジムに行くようになり、筋力トレーニングのハウツー本を読むようになった。
「トレーニングには、原理原則がいろいろとあるのか……ふむふむ」
例えば、「特異性の原理」。トレーニングした部位だけが発達する、ということだ。
(相手それぞれに相応の行動を要する、か……)
「オーバーロード(過負荷)の原理」。こなせるようになったら負荷を上げないといけない・筋肉にとって十分な刺激が無いと意味が無い、ということだ。
(飽きられないように俺が頑張り続けないといけない、か……)
「可逆性の原理」。トレーニングをサボると筋肉が痩せる、ということだ。
(さみしいと死んじゃう、か……)
他にも、筋肉は無からはできない・その材料を実際十分に与え続けないといけないとか、トレーニングには効果的なタイミングがあるとか、そういう知識を学び続けながら、彼はジムに通い続けた。
それから二年が経って、彼の胸板はすっかり厚くなり、肩幅はごつくなり、首と腕と脚も太くなった。
そして、同じ職場の可愛い年下女性がそんなたくましい彼に想いを寄せ、ある日思い切って彼を誘った。
「仕事の後、一緒に食事に行きませんか?」
もちろん、彼の答えは決まっていた。
「君は鬼か!」
【完】