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のび太のBIOHAZARD カテゴリーFの改造版 2

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第七話 暗躍する影



「次はどっちだ?」
「左です。その後は四つ目の角を右に曲がってすぐのところにのび太の家があります」

 ジャイアンの道案内に従い、野比家へと車を走らせる太刀川。

「ここを左っと……ん? 道が塞がってるな。仕方ない、ここからは歩きだな」

 左折した道路には横転した車が二台あった。
 ここはジャイアンたちが野比家から学校へ向かうときにのび太と別れた場所だ。あのときは炎の勢いが強く、とても通れそうになかったが、今は炎もだいぶ小さくなっており、徒歩でならその間を通れるようになっていた。
 二人は車から降り、暴力団事務所で入手した銃を構えながら先へ進む。

「前のほうに結構いるな。とりあえずこいつの試し撃ちといくか」

 スナイパーライフルのスコープ越しに、太刀川が前方に十数体ほどのゾンビ群を確認。そしてその中央にゾンビの頭部を入れ、トリガーを引いた。
 弾丸は見当違いの方向に飛んでいき、ゾンビ群の横、道路左側にある民家の二階の窓ガラスを割った。

「…………」

 だが、太刀川は冷静にボルトアクションで空薬莢を排出し、再びゾンビをスコープに収めて第二射を放った。
 しかしそれも目標には当たらず、第一射で窓を割った家の向かいの家のベランダに吊るしてある鉢植えを砕いた。

「…………」

 二発連続で外したが、それでもめげずに太刀川はスナイパーライフルを撃ち続けた。
 彼が撃った七発の弾丸は、街灯や屋根の瓦など、ゾンビではないものを次々に粉砕していった。マガジン一本分の弾を撃ち尽くしたが、見事に全弾外したのだ。太刀川という男、射撃に関してはてんでダメなようだ。

「うわぁ……」

 その様子を横で見ていたジャイアンが、あまりの酷さに思わず声を漏らした。
 “L96A1”はスナイパーライフルの中でも命中精度に優れている。にも関わらず、太刀川は標的に当てるどころか掠らせることすらできなかった。下手な鉄砲も数を撃てば当たると言うが、この様子では百発撃っても全弾外すだろう。

「……すまん。今から無駄弾分を取り戻す」

 太刀川はスナイパーライフルを片付けながらジャイアンに一言詫びを入れると、二本のマグロ包丁を抜刀してゾンビ群へ突撃していった。

「あっ、俺も行きます!」

 ジャイアンもマグナムから金属バットに持ち替えて彼に続いた。
 しかし、ジャイアンの出番は無かった。太刀川は素早い身のこなしでゾンビ群の中を駆け抜けながら、鋭い剣捌きでそれらの首を瞬く間に斬り落としていったのだ。
 太刀川は見事に名誉挽回を果たした。百発零中の射撃を、電光石火の百人斬りで。

「やはり俺には刀(こっち)のほうが性に合ってるな……おっ? ここか」

 立ち止まったところの塀に野比家の表札を見つけた太刀川。

「どこにでもありそうなありふれた家だな……」

 太刀川はジャイアンの到着を待ちながら野比家を観察する。

「……ん? ありゃ何だ?」

 一階を観察し終えて二階に視線を移すと、その中に異様な人影が見えた。バフォメットの角のようにセットされた青い髪、目元と鼻元を覆うT字型の黒い仮面、その下に見える金色の瞳と白塗りでもしたかのような真っ白い肌、顔の輪郭と耳を覆う金色の装飾具、紫色の襟巻、そして首から下は白いマントのようなものですっぽりと覆われていた。随分毒々しいな、というのが太刀川のその者への第一印象であった。

「はぁ、はぁ、やっと追いついた……」

 そこへ、ジャイアンが息を切らしながらやってきた。

「丁度いいところに来たな。剛田、今この家の二階にいる奴ってお前たちの言うドラえもんじゃないか?」
「二階に……?」

 太刀川はジャイアンへと視線を移し、二階を指さして彼に訊ねた。ジャイアンもすぐに野比家の二階に注目する。

「……誰もいませんよ?」
「!?」

 だが、ジャイアンはその中に人影を見つけることはできなかった。バカな、そんなはずはない! と思いながら太刀川も慌てて二階を見るが、そこには何も無かった。

「本当に何かいたんですか?」
「……いや、俺の見間違いだったようだ。それより、早くスペアポケットを探そう」
「はい」

 色々なことが起こりすぎたせいで幻覚まで見てしまったようだ。どうやら俺は相当疲れているようだ。太刀川はそう結論づけ、ジャイアンを促して野比家へと足を踏み入れた。
 家の中には誰もいなかった。ジャイアンたちが逃げたときにはのび太の母・玉子のゾンビがいたのだが、台所の勝手口の扉が開いていたため、そこから外に出たようだ。そのことにジャイアンは安心した。ゾンビがいなければ探索が楽ということもあるが、それよりも友達の家族を自らの手で殺さずに済んだことが大きかった。

「のび太の部屋はこっちです」

 ジャイアンが階段を上って太刀川を案内する。太刀川もそれに続いて階段を上る。そして、二階で二人が揃ったところでジャイアンがのび太の部屋のドアを開けて中に入った。
 室内はジャイアンたちが無人島から帰ってきたときのままで、とくに変わった様子は無かった。

「スペアポケットは確かここに……」

 押し入れを開けて中を調べるジャイアン。

「……あれ? 無いぞ」

 が、スペアポケットは見当たらなかった。

「こっちじゃないか?」

 太刀川がマンガが並んでいる本棚を調べてみる。しかし、その中にもそれらしきものは無く、あったものといえばのび太の0点のテストくらいであった。
 その後も二人は室内を探索し続けたが、結局スペアポケットを見つけることはできなかった。

「ここには無さそうだな。一階を探してみるか……」

 ジャイアンがのび太の部屋から出て階段へ向かう。

「うわぁぁぁ!」
「……? どうした?」

 だがすぐに戻ってきた。

「火事だ! 一階が燃えてる!」
「!?」

 いつの間にか一階が火事になっていた。おそらく近隣の家の火が燃え移ったのだろう。普通なら臭いや煙でもっと早く気づけただろうが、二人とも探索に集中していたため気づくのが遅れたようだ。

「仕方ない、スペアポケットは諦めるか。窓から出るぞ」
「はい」

 二人は部屋の窓から一階の屋根に降り、そこから道路に飛び降りた。その直後に一階から上がってきた火がのび太の部屋に到達し、炎海へと変えた。

「スペアポケットがあったとしても、これで完全にお釈迦になったな……」
「……」

 炎上する野比家を見つめてつぶやく太刀川。その隣で、ジャイアンも肩を落として落胆する。見出だした希望は潰えてしまった。

「……まぁ世の中そう都合よくはいかないもんだ。切り替えていこうや」

 そんなジャイアンの肩に手を置き、太刀川は励ましの言葉をかける。

「……そうですね。スペアポケットが無くたって、まだまだやれることはありますね」

 その言葉でジャイアンもスペアポケットへの未練を捨てることができたようだ。

「よし、それじゃあ早速さっきのビルに戻りましょう!」
「あぁ。まだ武器が残っているだろうしな」

 そして二人はその場を後にし、来た道を引き返していった。