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Planet of Rock'n Roll(第一部)

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6.スターズ&ストライプス




「チャーリー、お前が元いたバンドのメンバーはどうなんだ?」
「あいつらか、まあ腕は確かなんだが……」
「そう言えば意見の食い違いで抜けたって言ってたな」
「ああ、あいつら、いまやヘビメタバンドなんだよ、ヘビメタを否定するつもりはないけどさ、俺の趣味じゃないんだ」
「俺もそれはちょっとな……」
「俺はさ、もっと人間味溢れるって言うのかな、ガチガチ・グリグリじゃなくてさ、柔軟な音楽をやりたいんだよ」
「それは俺も同感だな、俺は基本的にジャズ畑のサックス・プレーヤーだからな、原点回帰って言ったらいいのかな、R&Bに根ざしたロックン・ロールがやりたいな、ロックン・ロールが生まれた時に持ってたパワーって、閉塞感を打ち破るようなものだっただろうと思うんだ、今の世界状況も閉塞感に侵されてるだろう? 霧をぱぁっと晴らすみたいな音楽、スピーディで、軽快で、ウキウキするような音楽、柔軟で人間味に溢れた音楽、そう言うのがやりたいんだ」
「そう、それだよ、だからヘビメタバンドのメンバーはちょっとな」
「と言ってジャズ畑もちょっと違うしな」


「おいおい、さっきから聴いてりゃ、ジャズ畑の人間にロックン・ロールはやれないって言うのかい?」
「エディ、まだいたのか? とっくに帰ったと思ってたよ」
 
 『ベイクド・ポテト』のステージ袖から姿を現したのは、〝ふとっちょ〟エディ、チャックがサックスを吹いているジャズバンドのベース奏者だ。

「君らのセッションを聴いてたんだ、どうだ? 俺にベースを弾かせてみないか?」
「だって、君はウッドベースだろう?」
「おやおや、ウッドベースじゃロックン・ロールができないなんて誰が決めたんだ? 大体チャックのサックスだってアコースティックだろう? それ以前にヴォーカルはみんなアコースティックさ」
「確かにな……チャーリー、どう思う?」
「どう思うかだって? セッションしてみないでその質問に答えられると思うかい?」
「ははは、そりゃそうだ、一丁やってみよう」
「曲は?」
「ジョニー・B ・グッドでどうだ?」
「OK、チャンスを貰えて嬉しいよ」

 エディが言うとおり、ウッドベースでロックン・ロールが出来ないと言うのは偏見に過ぎなかった。
 フレットがなく、微妙な音階の調整が出来るウッドベースは、むしろチャックとチャーリーが求めるサウンドにしっくり来る、音の大きさだけでなく表情でメリハリをつけられるのだ。
 キレの良さだけを取ればエレキベースに軍配が上がるが、キレならばチャーリーのギターが存分に表現できる、むしろサウンドに深みを加えられるウッドベースはスターズ&ストライプスにふさわしい。
 
「エディ、疑ったりして済まなかったよ」
「『のっぽのサリー』の向こうを張って『ふとっちょエディ』って曲を書こうか、ベースソロをふんだんに入れてさ」
「どうやら俺は合格したらしいな」
「ああ、ぜひとも一緒にやろう」
「ああ、こっちこそ頼む、ただし、俺の曲は『ふとっちょエディ』じゃなくて『魅惑のエディ』で頼むよ」
「ははは、わかったよ、後はドラマーだな」
「ああ、何処かにぴったりなのはいないかな、エディはどうだい? 心当たりはないか?」
「このバンドにぴったりな奴、俺はそいつを知ってるよ……」

  ♪    ♪    ♪    ♪    ♪

 翌晩、閉店後のセッションを取りやめて、三人はエディが推薦するドラマーを聴きに『ミンディズ』クラブへ急いだ。

「良かった、間に合ったよ」
「そいつは良かった、『ベイクド・ポテト』の倍の値段のバドワイザーを無駄にしなくてすんだよ」
「だけど、エディ、彼がそうかい?」

 ミンディズはちょっと上等なクラブで、出演しているのはセクシーな女性ヴォーカリスト。
 スタンダードナンバーを情感たっぷりに聴かせてくれるものの、肝心のドラマーはつまらなそうにブラシでソフトにリズムを刻んでいるだけ、これでは評価のしようがない。

「まあ待てよ、彼女、いつでもラストナンバーは『監獄ロック』と決めてるんだ」
「へぇ、そりゃまたどうして?」
「詳しくは知らないよ、おおかた食らい込んでたことでもあったんだろうさ」
「まあ、確かにあのドレスは犯罪を誘発しようとしていると看做されても仕方がないだろうけどな」
「確かに……布地を節約し過ぎだな」

「皆さん、残念だけど今夜もお別れの時間よ、最後の曲はいつものように『監獄ロック』、でも、別に監獄を懐かしんでるわけじゃなくってよ」

「名探偵エディの推理は当ってたようだな」
「しぃっ、俺たちはドラマーを探しに来たんじゃなかったか?」
「そうだったな、彼の名前は?」
「ビルだ」

 冒頭のギターコードに続く速射砲からビルはチャックとチャーリーを惹き付けた。
 力任せの連打とは違う軽快な連打、テクニックの確かさを覗わせ、表情もさっきまでとは一変して、生き生きとしている。
 叩き出すリズムは軽快で正確、細かいシンコペーションを加えて表情をつけることも忘れない。
 ピアノとベースはロックン・ロールに向いている様には思えない、はっきり言ってもたついている、それでもビルのドラミングは彼らをしっかり引っ張っているように聴こえる。
 女性ヴォーカルも腰と胸を盛大に振っての熱唱……もっとも、きわどいドレスでロックン・ロールを歌う理由がそこにあり、この店のバドワイザーが高い理由もそこにあるのかもしれないが……。
 そしてエンディング、ビルは滅多やたらとシンバルを叩きまくったりはしない、フロア、タム、スネアを行き来しながら盛り上げ、シンバルは最後の一打に留めた。

「どうだい? ビルは」
「ああ、凄く良いな、どういう知り合いなんだい?」
「昔R&Bバンドをやってた頃の仲間さ、バンドが食えなくてね、俺は『ベイクド・ポテト』に、ビルはここに、ハンバーガーばかりを齧っていなくて済むだけの仕事を見つけた、そう言うことさ」
「ビルは俺たちと一緒にやってくれるかな?」
「多分ね、さっきの生き生きとした顔を見ただろう?」
「ああ」
「俺たちがやろうとしていることを話せば、もう一度あの顔になると思うね……」 

(第一部・終わり 第二部に続く)
作品名:Planet of Rock'n Roll(第一部) 作家名:ST