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みゅーずりん仮名
みゅーずりん仮名
novelistID. 53432
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『タイムトラブリィ~ ショートショート:追憶』

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『ショートショート:追憶』


イワシとサンマ、どちらがお好きですか。
そりゃあ、サンマでしょう。ただし、大根おろしは欠かせませんがね。
確かに。
そうはいっても、所詮、雑魚な話。いや、実は私は漁村の出身でして。
そうですか、これは出過ぎた真似を。

そんなことはありませんよ。今日は、私の昔話を聞いてくれますか。
もちろんです。
昔々、あるところに一人の少年がおりまして。家は民宿を経営、軒先で干物やなんかを観光客相手に売る手伝いをするのが彼の趣味でした。
それは偉い。
そりゃあ、チップとやらが存在していたからですよ。
そんな時代から。
ええ、時には干物よりもお金になったものです。健気な少年好きは多いものでして。
なるほど。

ある日のことです。軒先に、スーツを着た男性がやって来ました。場違いな雰囲気を醸し出していたので、子供心にも警戒心が浮かびました。
そうでしょうね。
それから、その人は二階へ上がり、両親としばらくの間、何事か話し込んでいました。時折、父親が声を荒立てているのが聞こえ、少年は震え上がりました。恐喝か何かの類だと思ったためです。
そうでしょうね。
やがて話し合いは終わり、その人は軒先にいる私を見ると、ウニの瓶詰めを要求してきました。恐る恐る差し出した私の手に、5千円札を握らせると、彼は言いました。
…なんと言ったんです?
50年分だ、と。

それから、どうなったんですか。
夏休みが開けて学校へ出ると、なぜか皆、流行りの新しいおもちゃを手にしていました。かくいう私もですが。誰も何も言わないまま、やがて次の流行りが来るまで、その遊びは続きました。
ふん、楽しそうだ。

今でも分からないんですよ、あの時、なぜ貴方が我が家を訪れたのか。
記憶違いでしょう。
貴方のテストに私は、合格したはずですよ。今回もサンマと答えた。
自分に似た人は3人はいるという話ですから。
変なことを言っていると、分かっています。でも貴方はあの時のままだ。

嬉しいですね、貴方の少年時代の中に私がいる。
あの後、大地震と津波が、私の家を流し去りました。
そうですか。
両親も一緒にです。
それは本当にご愁傷様でした。
教えてください、両親と何の話をしたのか。私は貴方にそれを訊くためだけに生きてきたと言っても過言ではないんです。

申し訳ないですが、私はあなた様のご両親を存じ上げない。
貴方は…貴方は、あの後の出来事を知っていたのではないですか?
あの有名な地震と津波のことを忘れたことはありません。
あの日の朝、母親が言ったんです。今日は高台で遊べと。
そうですか。
だから私は、ここにいる。今も生きているんだ。
良かったですね。

今年で、あれから丁度50年になります。
おめでとうございます。
一緒に乾杯してくれますか。
もちろんです。

乾杯。


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