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わすれがたみ(ティム・シュルツの魂)

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『あの日』以来、私の心は半分欠けたままだ。
 もしわすれがたみのスティーブンがいなければ全部……。

 ティムの仲間だったフィル、ヒューゴ、ジミーの3人がイエーツ・マーロウ&オドネルを結成してもう15年になる。
 そして、今では彼らもすっかり大御所バンドと呼ばれている。
 喜ばしいことだし、ことある毎に彼らとは会って祝福の意も伝えている。

 でも、本音はちょっと違う。

 本来なら彼らの中にティムもいた筈……ティム抜きで彼らが成功を収めたことが少し淋しくもある……彼らには何の落ち度もないのだが、気持ちは頭で考えるようには行かないものだ。

 でも……。

 結成15年間メンバーの変動がなかった彼らだが、ごく最近新しいメンバーを迎え入れた。
 若干16歳のギタリスト、スティーブン・シュルツ。
 そう、ティムと私の子だ。
 今日はスティーブンが加わって初めてのライブになる。

 ステージに3人が現れ、ヴォーカルのフィルが新しいメンバーを紹介してくれた。

「僕らの大切な仲間が帰って来てくれたんだ! スティーブン・シュルツ! 若くして亡くなった僕らの仲間の息子だ! そして、今日から僕らはバンド名も新たにするつもりだ……『LOVE BRAVE』僕らが15年間名乗りたくて仕方がなかったバンド名さ!」

 嵐のような歓声の中、演奏が始まった。
 ヒューゴの鋭いナイフのようなギターに、スティーブンの伸びやかなギターが絡んで行く……。
 15年の歳月が一度に縮まった様に思えた。
 私の許に『あの頃』が帰ってきてくれた……。
 彼らはLOVE BRAVEを棄ててイエーツ・マーロウ&オドネルとして成功を収めたのではなかった、ずっとティムの魂が帰ってくるのを待っていてくれたのだ……LOVE BRAVEと言う名前を封印してまで。
 それに気づいた瞬間、この15年の間ずっと抱いて来た淋しさ、悲しみ、そして、頭ではわかっていても消し去れなかった恨みまでが走馬灯のように頭をよぎり、そして天に向かって飛び去って行った。

 聴衆の歓声に包まれ、ヒューゴとスティーブンがギターをつき合わせるようにして掛け合いのソロを弾く。
 2本のギター、12本のスチール弦が互いのピックアップの磁場を揺らして音が混じりあい、溶け合って宙へと行く舞い上がって行った……。
 

 ティム・シュルツ、彼はもうこの世にはいない。
 しかし、ティムの魂は息子のスティーブンに受け継がれ、今、ここに彼が愛して止まなかったLOVE BRAVEの音楽が蘇った。
 ティムの魂は消えていなかったのだ……。
 
 私はその音を胸にぎゅっと抱きしめた。
 すると背中から優しく抱きしめられたように感じた……見えないけれど、大きくて暖かい力で……。


(Fin)