ケン・ポストマン、業務停止処分を免れるの巻
daimaさんの『ポストマンの歌が聞こえる』(http://novelist.jp/82983.html)を元に、daimaさんのご希望に沿ってスピンオフを書きました。
このところスピンオフ作品が目立っていると思いますが、実は仲間内で『スピンオフまつり』をやってます(笑)……相当楽しいです(^^)
原作はココロアタタマルこと請け合いの良作ですので、そちらから読んでいただくのがベストですが、一応原作の設定とスピンオフの条件を箇条書きに……。
① 主人公はケン・ポストマン、時空を超えて手紙を届けることが出来る不思議な郵便配達人です。
② 手紙が届くのは、『過去、現在、未来』国境も超えて頂いて構いません。(*^_^*)
③ 作中に、必ず一通手紙を載せてください。
④ ポストマンのビジュアル&性格イメージは平井堅さんです。単純にファンだからです(笑)性格はウィットに富んだ感じですと嬉しいですm(_ _)m
と、以上を踏まえて本文へお進み下されば幸いです。
(本文)
「おじちゃん、おうたじょうずだね」
「え? そうかい?」
ケン・ポストマンはひと仕事終えたばかり、公園のベンチでペットボトルの紅茶を飲みながらほっとひと休みしているところだ。
もちろん、得意の鼻歌を歌いながら。
すると、三輪車の男の子が声をかけてきた。
「ぼく、そのおうたしってるよ」
「ああ、幼稚園で習ったの?」
「うん!」
ケンにも丁度これくらいの孫がいるので、思わず目を細めてしまう。
「一緒に歌おうか」
「うん」
「1、2、3 おお~きな のっぽの ふるどけい~♪」
ワンコーラス歌い終わると、ケンは拍手した。
「ぼく、お歌上手だねぇ」
男の子もニッコリ笑って小さな手をパチパチとたたく。
「おじちゃん、ここでなにしてたの?」
「お仕事でちょっと疲れたからひと休みしてたんだよ」
「おしごとってなに?」
「おじちゃんはね、郵便屋さんなんだ、どこの誰にでも、昔の人や未来の人にもお手紙を届けられる不思議な郵便屋さんなんだよ」
「だったら、かみさまにもとどけられるの?」
「もちろんさ」
「ぼくのおてがみも?」
「いいよ、届けてあげるよ」
「あ、でも、かみもえんぴつもないや……」
「はい、おじちゃんが持ってるよ」
「いいの? いまかくからまっててくれる?」
「もちろん……」
「はい! かけたよ……これをかみさまにとどけてください、おねがいします!」
「はい、確かにお預かりしまし……」
男の子は、手紙は封筒に入れるものだとは知らなかったらしい、折りたたみもしないで渡されたものだから、ケンはついその文面を読んでしまった。
「あ、ぼく……これは……」
ケンは呼び戻そうとしたが、男の子はもう友達の元へ行ってしまい、遊びに夢中になっている。
(本当はこんなことしちゃいけないんだけどな……)
ケンは、男の子の筆跡を丁寧に真似て、全部ひらがなで一行書き加え、その手紙を封筒に入れた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「おお、ケン・ポストマンか、二週間ぶりだな」
「あ、え……まあ、その……」
「ははは、知っておるよ、お前の代役はしっかり仕事しておったぞ、どうだ? そろそろ代替わりしては……」
「え~? クビですか?」
「ははは、あと15年ほどしたらな……手紙を届けに行かんのか?」
「いや、この手紙は神様宛てなんです」
「ほほう……ふむふむ……なるほど……ケンよ」
「はい?」
「最後の一行が不自然だな」
「ギクッ」
「まるで大人が書いたようだが……」
「ギクッ、ギクッ」
「まさか、お前……」
「ギクーーーーッ」
「まあ、良い、この一行がなかったらこの願いは聞いてやるわけにも行かないからな」
「ホッ……」
「だが、もうやるなよ、今度やったら業務停止処分だからな……」
「シュン……」
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
あの男の子は瞬く間に青年になっていた。
横断歩道でまごまごしているお祖母さんをおぶって渡してやり……一つ歳を取った。
男の子の願い事、それは「はやくおおきくなりたい」だった。
困っている人を助けてあげたいし、悲しんでる人は慰めてあげたいし、淋しがっている人とお友達になってあげたい、だから、善行を一つ重ねる毎に一つ歳を取りたい。
そう書いてあったのだ。
そして……。
「お譲ちゃん、それは本当は大切なものなんじゃないかね?」
あっという間に99歳になってしまった男の子は、公園のゴミ箱にリボンをかけた包みを投げ棄てようとしている女の子に声をかけた。
「いいの、受け取ってもらえないチョコなんかもうどうでもいい……」
「もしかして手作りチョコかね?」
女の子は小さく頷いた。
「そりゃもったいない、棄てるくらいならワシにくれんかね?」
「貰ってくれるの?」
「喜んで」
ベンチに並んで腰掛け、二人でチョコを食べ終わる頃には、女の子はすっかり笑顔を取り戻していた。
「おじいさん、来年のバレンタインもここに来てくれる? で、またチョコ貰ってくれる?」
「ああ、楽しみにしておるよ……」
何度も手を振りながら駆け出した女の子、彼女を見送った老人は深いため息をついた。
(いや、神様にお願いはしたが、こうも早く歳を取るとは思っていなかったな……思えば浅はかなお願いをしてしまったものだ……)
老人がゆっくりと目を閉じると、吸い込まれるように意識が遠ざかって行った……。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「あれ? ゆうびんやさんのおじちゃん、まだここにいたの?」
公園のベンチで目を醒ました男の子は不思議そうに辺りを見回した。
「ははは、ぼうやが眠っちゃったからね、膝を貸してあげてたんだよ」
「ぼく、へんなゆめみてた、かみさまにおてがみかいたらねがいがかなったんだ」
「へえ、どんなお願い?」
「あのね、いいことをひとつしたら、ひとつおおきくしてください、はやくおとなになってたくさんのひとをたすけてあげたいからって」
「それは良いお願いだね」
「でもね、おとなになるだけじゃなくて、どんどんおじいさんになっちゃったんだ、そうなっちゃったら、わかいときみたいにおばあさんをたすけてあげたりできなくなっちゃった」
「ああ、それはそうなるね……で、ぼうやはどうしたい?」
「うん、はやくおおきくならなくてもいいや、ちいさいときはちいさいとき、おにいちゃんになったらおにいちゃんのとき、おじいさんになったらおじいさんのときで、できるいいことがちがうんだよ」
「それ気づいたのはすごいな、一生かかってもなかなか気がつかないことだよ」
「だからふつうにゆっくりおおきくなって、そのときのぼくができることをするんだ」
「うん、おじちゃんもそれが良いと思うよ」
「そうだね、おじちゃん、ありがとう、おはなししてくれて」
「ははは、ほら、お友達が呼んでるよ」
「うん、おじちゃん、またね」
「ああ、また会おうね」
(ふう、思ったよりずっとうまく行ったな……)
このところスピンオフ作品が目立っていると思いますが、実は仲間内で『スピンオフまつり』をやってます(笑)……相当楽しいです(^^)
原作はココロアタタマルこと請け合いの良作ですので、そちらから読んでいただくのがベストですが、一応原作の設定とスピンオフの条件を箇条書きに……。
① 主人公はケン・ポストマン、時空を超えて手紙を届けることが出来る不思議な郵便配達人です。
② 手紙が届くのは、『過去、現在、未来』国境も超えて頂いて構いません。(*^_^*)
③ 作中に、必ず一通手紙を載せてください。
④ ポストマンのビジュアル&性格イメージは平井堅さんです。単純にファンだからです(笑)性格はウィットに富んだ感じですと嬉しいですm(_ _)m
と、以上を踏まえて本文へお進み下されば幸いです。
(本文)
「おじちゃん、おうたじょうずだね」
「え? そうかい?」
ケン・ポストマンはひと仕事終えたばかり、公園のベンチでペットボトルの紅茶を飲みながらほっとひと休みしているところだ。
もちろん、得意の鼻歌を歌いながら。
すると、三輪車の男の子が声をかけてきた。
「ぼく、そのおうたしってるよ」
「ああ、幼稚園で習ったの?」
「うん!」
ケンにも丁度これくらいの孫がいるので、思わず目を細めてしまう。
「一緒に歌おうか」
「うん」
「1、2、3 おお~きな のっぽの ふるどけい~♪」
ワンコーラス歌い終わると、ケンは拍手した。
「ぼく、お歌上手だねぇ」
男の子もニッコリ笑って小さな手をパチパチとたたく。
「おじちゃん、ここでなにしてたの?」
「お仕事でちょっと疲れたからひと休みしてたんだよ」
「おしごとってなに?」
「おじちゃんはね、郵便屋さんなんだ、どこの誰にでも、昔の人や未来の人にもお手紙を届けられる不思議な郵便屋さんなんだよ」
「だったら、かみさまにもとどけられるの?」
「もちろんさ」
「ぼくのおてがみも?」
「いいよ、届けてあげるよ」
「あ、でも、かみもえんぴつもないや……」
「はい、おじちゃんが持ってるよ」
「いいの? いまかくからまっててくれる?」
「もちろん……」
「はい! かけたよ……これをかみさまにとどけてください、おねがいします!」
「はい、確かにお預かりしまし……」
男の子は、手紙は封筒に入れるものだとは知らなかったらしい、折りたたみもしないで渡されたものだから、ケンはついその文面を読んでしまった。
「あ、ぼく……これは……」
ケンは呼び戻そうとしたが、男の子はもう友達の元へ行ってしまい、遊びに夢中になっている。
(本当はこんなことしちゃいけないんだけどな……)
ケンは、男の子の筆跡を丁寧に真似て、全部ひらがなで一行書き加え、その手紙を封筒に入れた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「おお、ケン・ポストマンか、二週間ぶりだな」
「あ、え……まあ、その……」
「ははは、知っておるよ、お前の代役はしっかり仕事しておったぞ、どうだ? そろそろ代替わりしては……」
「え~? クビですか?」
「ははは、あと15年ほどしたらな……手紙を届けに行かんのか?」
「いや、この手紙は神様宛てなんです」
「ほほう……ふむふむ……なるほど……ケンよ」
「はい?」
「最後の一行が不自然だな」
「ギクッ」
「まるで大人が書いたようだが……」
「ギクッ、ギクッ」
「まさか、お前……」
「ギクーーーーッ」
「まあ、良い、この一行がなかったらこの願いは聞いてやるわけにも行かないからな」
「ホッ……」
「だが、もうやるなよ、今度やったら業務停止処分だからな……」
「シュン……」
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
あの男の子は瞬く間に青年になっていた。
横断歩道でまごまごしているお祖母さんをおぶって渡してやり……一つ歳を取った。
男の子の願い事、それは「はやくおおきくなりたい」だった。
困っている人を助けてあげたいし、悲しんでる人は慰めてあげたいし、淋しがっている人とお友達になってあげたい、だから、善行を一つ重ねる毎に一つ歳を取りたい。
そう書いてあったのだ。
そして……。
「お譲ちゃん、それは本当は大切なものなんじゃないかね?」
あっという間に99歳になってしまった男の子は、公園のゴミ箱にリボンをかけた包みを投げ棄てようとしている女の子に声をかけた。
「いいの、受け取ってもらえないチョコなんかもうどうでもいい……」
「もしかして手作りチョコかね?」
女の子は小さく頷いた。
「そりゃもったいない、棄てるくらいならワシにくれんかね?」
「貰ってくれるの?」
「喜んで」
ベンチに並んで腰掛け、二人でチョコを食べ終わる頃には、女の子はすっかり笑顔を取り戻していた。
「おじいさん、来年のバレンタインもここに来てくれる? で、またチョコ貰ってくれる?」
「ああ、楽しみにしておるよ……」
何度も手を振りながら駆け出した女の子、彼女を見送った老人は深いため息をついた。
(いや、神様にお願いはしたが、こうも早く歳を取るとは思っていなかったな……思えば浅はかなお願いをしてしまったものだ……)
老人がゆっくりと目を閉じると、吸い込まれるように意識が遠ざかって行った……。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「あれ? ゆうびんやさんのおじちゃん、まだここにいたの?」
公園のベンチで目を醒ました男の子は不思議そうに辺りを見回した。
「ははは、ぼうやが眠っちゃったからね、膝を貸してあげてたんだよ」
「ぼく、へんなゆめみてた、かみさまにおてがみかいたらねがいがかなったんだ」
「へえ、どんなお願い?」
「あのね、いいことをひとつしたら、ひとつおおきくしてください、はやくおとなになってたくさんのひとをたすけてあげたいからって」
「それは良いお願いだね」
「でもね、おとなになるだけじゃなくて、どんどんおじいさんになっちゃったんだ、そうなっちゃったら、わかいときみたいにおばあさんをたすけてあげたりできなくなっちゃった」
「ああ、それはそうなるね……で、ぼうやはどうしたい?」
「うん、はやくおおきくならなくてもいいや、ちいさいときはちいさいとき、おにいちゃんになったらおにいちゃんのとき、おじいさんになったらおじいさんのときで、できるいいことがちがうんだよ」
「それ気づいたのはすごいな、一生かかってもなかなか気がつかないことだよ」
「だからふつうにゆっくりおおきくなって、そのときのぼくができることをするんだ」
「うん、おじちゃんもそれが良いと思うよ」
「そうだね、おじちゃん、ありがとう、おはなししてくれて」
「ははは、ほら、お友達が呼んでるよ」
「うん、おじちゃん、またね」
「ああ、また会おうね」
(ふう、思ったよりずっとうまく行ったな……)
作品名:ケン・ポストマン、業務停止処分を免れるの巻 作家名:ST