ここに来た13 バリ島
13 バリ島(インドネシア)
赤道をほんの僅かに越える、南半球に位置するインドネシアの観光地。
私は、この島が大好きで、結婚式をこの島の高級リゾートホテルで挙げた。
断崖絶壁に建つホテルのロビーには、壁はない。
外の風が心地よく吹き抜け、中央に大きく飾られた花から、香しい匂いが漂って、床に座る楽団が、心地よい音楽を竹の楽器で演奏している。
当日の天候が気になっていたが、現地の人は口を揃えて、「神様にお祈りしたから大丈夫。」と言っていた。
純白のウェディングドレスを着た妻とタキシード姿の私は、電動のオープンカートで、崖の上の式場に向かった。
バリ島伝統の割れ門から、式場になっている庭に入ると、家族と二十数名の友人たちに迎えられた。
芝生で覆われた庭の小高い丘の上に、ロビーと同じく壁のない、石造りの白いガゼボ(あずま屋)が建っている。
唯一、赤道直下の日差しを遮るその屋根の下で、キリスト教式のセレモニーが執り行われた。
天気について祈ってくれていたのは、ヒンドゥー教の神にだったが、その神様はへそを曲げることなく、他教で式を挙げる私たちを祝福してくれたということか。
断崖の上のこの庭は風が強いが、その気温のせいもあり、私には心地よく思える。
私の母は、和装での参列を希望していたが、日差しの強さに、ホテルスタッフに止められ、断念していた。
誓いを立てて、指輪の交換、シャンパンで乾杯して、ウェディングケーキ入刀、お決まりのパターンで式は進行した。
式後、皆で記念撮影していると、ようやく緊張もほぐれ、周囲の景色の壮大さに感動。
崖伝いに目をやると、インド洋に突き出した岬の上に、牛が数頭のんびり草を食べている。
時折黒い蝶が舞う花壇やプールサイドで、カメラマンに記念撮影をしてもらっている間に、参列者は解散し、各々に観光に出かけて行った。
私たちは、その後の披露宴の打ち合わせをする必要があったが、ほとんどホテルのスタッフがこれでもかと言わんばかりに、すばらしい提案をしてくれた。
日本のような派手な演出はないが、一棟貸しのプール付きプライベートヴィラで、ディナーパーティを開催できた。
部屋には、美しくいい香りの花やフルーツが、たくさん飾り付けられた。
スタッフの数も多すぎるくらいに配置され、バーテンがキッチンでカクテルを作ってくれる。
ロビーにいた楽団の演奏をBGMに。写真とVTRのカメラマンは、昼間から常時付いて、撮影してくれた。
私は友達らとジャグジーに浸かりながら、南十字星を見て、今度は星を見るために来ようと思った。
日本から一切の仲介業者を通さずに、このホテルに結婚式を直接予約したものの、行ってみないとどうなるか分からない状況でも、パーフェクトに対応してくれた。しかも驚くほど安く。式や料理以外の演出は、ほとんどが無料のサービスだった。
私はチェックアウトの時に、感謝の気持ちで、ホテルスタッフと握手をしたのは初めてだった。
Ritz Carlton恐るべし。
作品名:ここに来た13 バリ島 作家名:亨利(ヘンリー)