小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

1005号室

INDEX|1ページ/1ページ|

 

アラン:架空庭園 AWV 63
Le jardin suspendu, AWV 63
https://www.youtube.com/watch?v=hCiEV14Ww8U

なぁ、どうみたってこのホテルやばいだろ。
霊感のない俺でさえやばさをビンビン感じるぐらいだものな。
そういうのに敏感なお前が、よく平気でいられるなって・・。
なぁ、聞いてるのか?
なぁ、本当にさぁ、部屋変えてもらおうぜ。
なんならキャンセル料払ってもいいからさ、宿を変えないか。
こんな陽当たりの悪い、苔が蒸したような。ほらよ、なんかカビ臭くねえか。
湿気が建物中に回ってんじゃねえか。ほら床の赤いカーペットも湿気ってるじゃん。
さっきフロントにいた血色の悪い婆・・。
まるで死神のような瘦せ細った顔のくせによ。
獣のように眼が充血してたじゃねえか。ありゃ絶対なんか憑りついてるぜ。
さっきのエレベーターだってよ、この階にたどり着くのに二回停電したろ。
そのとき見たんだ、エレベーターの箱の中の鏡。
なんか青白くボウッと光ってる子供が立っていたんだ。
俺はびっくりして辺りを見回したが、俺たちだけしか乗ってなかったよな!
ほんとだよ、だからこれだけ言ってるんだよ。
なぁ、やばいってこのホテルは。
廊下を曲がるたびに双子の女の子が立ってないかって、ゾッとするぜ。
なんだよこの音は。廊下の天井に暖房用のダクトが剝き出しじゃねえかっ!
さっきから妙な胸騒ぎがするんだ。
ほらこのダクトから何か聞こえてこないか?
ゴンゴンゴンゴン音がしてるぞ・・・。

で、部屋のナンバーは?
1005?
マジかよ。
さっきエレベーター乗ってた時、気づいたろ。
ここは10階なんだが10階じゃないんだ。
この下は8階だった。
本当は9階なんだが、云うだろ9は苦しむの“苦”だって。
あぁ忌み言葉なのさ。だから9階は素っ飛ばして10階と言い張ってるだけなんだ。
だからここは・・苦しみの・・9階なんだ・・・
2,4,6,8・・・なんてことだ。
この階の部屋数は8部屋だ。
9階を10階と言い張っているホテルだ、きっと4号室なんかありゃしないだろ。
あぁそうさ。4は死ぬの“死”だってことさ。
1003号室のとなりは、ほら1005号室だ。
この部屋はどっちから数えても4番目の部屋だ。
最悪のホテルの最悪の部屋だぞ。9階の4号室!

なぜ無表情に鍵を開けるかな?
また予想通りの嫌な音を立ててドアが開くじゃねえか。
うわぁぁぁぁ、なんて陰惨な雰囲気。
よせよ、お前が先に入れよ。
まず・・おぅ、そこの横のところにキーを突っ込まないと電源が入らないんだよ
・ ・ぉう、照明はとりあえず点いたな。
ぃゃ、やっぱりだめだ。この部屋には入れない。
目がちかちかする・・
足元がくらくらする・・
ぉぉぅ、悪いな。とりあえず、そこの鏡台の前の椅子に座らせてくれないか。
立ち眩みしちまった。
ほら、空気悪いものな。あ・・・窓がない部屋だぜ。
なにか気が滅入るな。なんだよこの薄暗い照明は・・。
他に客もいないようだしさぁ・・。マジで変えてもらおうぜ、部屋をよ!

あ!
ぁぁぁぁ、やばいよ。見えちまった・・・。
俺の後ろの鏡台の鏡に・・映ってんだろ・・・憎々しい顔した青白い婆が・・
視界の隅っこに入ってきちまった。やだよ、眼なんか開きたくない。
何も映ってない?
よく言うぜ、俺にはハッキリ過ぎるほど見えたぞ。
下手に動けないよな。やばいよ、どうしよう。
動けないよ、腰が抜けちまったよ。
な、なんか・・ないかい、なんか気の利いたものがよ!
おぅ、それそれ気が利くじゃないか!
こういう処にはほら、それだよ、聖書がつきもの!
おぅこっちに貸してくれぃ!
ったく、投げてよこしやがったよ・・
えーとどれどれ、アーメンとか書いてないか、こういう時のためのさ!
アーメン!アーメン!

“読んでもいいよ”


聴いたかいっ!
“読んでもいいよ”だとさ!
“わたしはキリストなんか関係ないからね!”だってよ!
後ろの婆が、鏡の中から囁きやがった!
なんでもいいよ、ギャーてーぎゃーはらぎゃーてー。
なんかあるだろうよ、こういう時の神頼みの呪文みたいなもんが!
畜生め、こういう時に限って思いつかねぇ!
・ ・あぁぁお前の後ろにも!
・ 壁からいっぱい・・
なんだよ化け物だらけじゃねえか、この部屋は!

ひゃっ!婆が俺のケツを触りやがった!
もうこんなところには居られねえや!
俺はここから出ていくぜ!
って、ドアを蹴破って、いきなり不気味な双子・・逆に向かって走れ、走れ!
エレベーターホール・・ぃゃぃゃこんなところのエレベーターに乗ったら最後
なにが出てくるか知れやしねぇ、階段だよ、階段!
非常階段を降りる、降りる。
・ ・したら・・何物かが追ってくるようじゃないか
足音が響く響く。
こんなときは振り返っちゃいけねえ。
どんな化け物が後ろにいるかわからねえからな。
ほら一歩一歩、降りていくんだぃ
焦っちゃいけねえ。しかし長い階段で・・
壁には配管がぎっしり並んでやがる。
その一本一本が不気味な音を立てていて
“あいつをさがせ、もうひとりのあいつを”
“久しぶりの肉をたっぷりと味合わせておくれ”
なんてこった・・・やつらヒトを喰っちまうのかょ!
やべえ、やべえ、足音が近づいてきた・・
降りろ、降りろ!
降りろ、降りろ!
降りろ、降りろ!
降りろ、降りろ!
降りろ、降りろ!

だから焦っちゃいけねえんだょ!
階段を転げ落ちて、気がついた途端フロントが目に入ったんで

“おい!なんなんだこのホテルは!化け物屋敷か!“

貧相な顔したフロントの婆が充血した赤い目を上げて見やがった。

俺と相方と二人でホテルを出てくからな!
こんなホテル泊まれるか!

“申し訳ございません、手前共の御部屋でご満足いただけず申し訳ございませんでした。早速手続きをいたしますので、少々の御時間をいただきますので。
えぇと、お客様はおひとりさまで来られましたよね?”

“お客様はおひとりさまで来られましたよね?”

なんだと?

“お客様はおひとりさまで来られましたよね”

俺はフロントの前で、また腰を抜かしてしまった。
俺はひとりでここにやってきたのか・・
狐か狸にでも化かされているのか・・
なんともやりきれない不思議な心持になったもんだよ・・

“お客様はおひとりさまで来られましたよねぇ”
振り返った青白い顔した婆が充血した目を広げてこちらを覗き込みながら
開いた口からは赤い鮮血が垂れていて・・
その冷ややかな笑みには忌まわしい食欲が見て取れた。


作品名:1005号室 作家名:平岩隆