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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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死にたい (4)

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君がぼくの部屋に居たと言う形がある。
トイレの棚に置かれた、小さな植木鉢。15センチくらいの細い木だ。君が居た時は、ぼくはあまり関心が無かったから、何の木だろうと知りたい気持ちもなかった。
 君が消えて、青葉が元気を失くしていることに気付いた。10日間も水を与えていなかった。水をやると同時に、何と言う木だろうかと図鑑で調べた。葉の形から、欅であると分かった。ぼくは欅に花が咲くことを知らなかった。図鑑には葉の出る前に花が咲くと書いてあった。その時期は4月から5月あたりらしい。
 君とぼくが出会った頃。君はどこかで買って来たのだろう。こんな地味な木を何故、ぼくは想像した、大きく育った欅の大木の姿。その意味。君はこの木に何かを暗示したのかもしれない。台地にあれば人手を借りること無く育つはずだ。誰かが水を与えなければ、植木鉢の欅は枯れてしまう。君はその水をぼくに求めていたのだろうか。
 欅に水を与えていると、チャイムが鳴った。ドアののぞき穴から観ると、警察官だった。一応、チェーンは外さずにドアを開けた。
「以前伺ったものです」
言われてみると交番の警察官だ。ぼくはチェーンを外し、ドアを全開した。
「捜索願、取り下げになりました。何度か伺ったのですがね」
「所在が分かったのですか」
「そうでしょう」
「ありがとうございます」
「山際さんは栃木県出身ですか、本官もそうです」
「同郷ですか。親近感感じます」
「何かあったら交番に来て下さい」
「ありがとうございます」
 とうとう、君からは何の連絡もなかったが、もうすぐ10月になる。欅の葉も紅葉するだろう。ぼくは、残された欅を太くたくましく育ててみたいと思った。
 君が結婚する時、欅を返してもいい。ぼくのところに戻ってきたら、小さな庭のある家にこの木を植えようと思う。何時か、欅の花も観てみたいと思った。
 水のある方へと根を張り、陽の当たる方へと枝を伸ばす、植物の生へのたくましさ、君はその事を知りながら、僕に甘えを求めたのだろうか?

おわり  



作品名:死にたい (4) 作家名:吉葉ひろし