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金の未来・銀の未来

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 時として人生には思いもよらぬことが起こる。
 俺は、ある日突然事故に合い、車椅子生活を余儀なくされる事態になった。体が不自由になるなどということは、まるで考えたこともない。それは他人事のはずだった。自らに起こったことだと受け入れるなんて到底できない。俺は荒れた。もう何もかもどうでもよくなった。
 そして、俺は不思議な夢を見た。


 俺はきれいな湖の畔にいた。すると、光輝く湖面がにわかにさざなみ、なんと美しい女神が現れた!
「あなたが失くした未来はどちらですか?」
 優しく微笑みながら、女神は右手を差し出した。
「こちらの金の未来でしょうか?」
 そこには、ついこの間までの俺が映っていた。サッカーボールを追いかけ、山を登り、仲間と酒をくみ交わす、ごく当たり前の日常を送っている俺だ。安心した俺はすぐに答えた。
「そうです、それです! 間違いありません」
 すると、女神はにっこり微笑んで言った。
「そうですか、でも銀の未来もご覧になってはいかがですか?」
 もう以前の俺に戻れると確信した余裕から、見るだけ見てもいいかなと思い、俺はうなずいた。
 ところが女神の左手の先には、なんと、車椅子に乗った今の自分の姿が映っているではないか! その時点で、俺は見る必要はない、いや、見たくないと思い、女神に言った。
「やっぱりいいです、金の未来でお願いします!」
「わかりました。でも、さきほどあなたが見たのは金の未来の始まりの部分です。どうぞ、その先をご覧ください」

 
   * * * * * * * *


 若さに任せ、俺は何も考えることなく、毎日面白おかしく暮らしていた。ところが、しだいに遊び仲間は身を固め出し、一人また一人と俺の前から消えていった。
 四十代になると、あれほどまとわりついてきた女たちも寄り付かなくなった。そして、夜になって通う場所も、ネオンきらめく繁華街から、路地裏の小さな飲み屋へと移っていた。
 五十代になった俺は、その飲み屋の女将を相手に愚痴を並べては、毎晩のように悪酔いしていた。そんな俺は女将から、
『あんたはアリとキリギリスのキリギリスだね、今からでもアリにおなり!』
 そんな説教を繰り返された。そして、トボトボと誰も待つ者もないぼろアパートへと帰っていく哀れな姿で映像は終わった。


   * * * * * * * *


 呆然としている俺に、女神が言った。
「銀の未来も途中ですから、ご覧になってはいかがですか?」
 俺は力なくうなずいた。


   * * * * * * * *


 大ケガから立ち直れず、家に閉じこもっている俺のうわさを聞いて、ある日中学時代の同級生が訪ねて来た。付き合ったこともないただの女友だちだった。
 しかし、彼女はそれから毎日、俺の家を訪ねてきては、無理やり俺を散歩に連れ出した。すべてに投げやりになっていた俺は、されるがまま彼女に従う日々が続いた。
 そのうち、散歩の延長でリハビリセンターに連れて行かれるようになった。医者からは歩けるようになるのは難しいと言われていたので、俺は何の期待も持っていなかった。だから、通うのは面倒でしかない。しかし、そんな俺を励まし、なだめ、彼女は根気よく俺をリハビリに通わせた。
 季節が変わる頃、俺にわずかな変化が現れ始めた。一瞬だが自分で立てるようになったのだ! 俺はかすかではあるが、望みが見えた気がした。それからは今までとは違い、自ら進んで厳しいリハビリに取り組み始めた。
 そして一年が過ぎた頃、なんと俺は、奇跡的に杖をついて歩けるまでになったのだ。それを見届けると、彼女は置手紙を残し、俺の前から姿を消した。

 俺は何も知らなかった。
 俺が事故のショックで閉じこもっていた当時、なんと彼女もまた、新婚の夫を事故で亡くすという不運に合っていた。即死であったため、事実を受け入れることができず、また看病もできなかったことで、悲しみから抜け出せずに苦しんでいたのだ。
 そんな時俺のことを聞いた彼女は、俺の姿が夫とだぶったという。懸命に俺を支えることで、彼女自身が救われ、そして俺の回復を見届けることができた今、前に一歩踏み出せると手紙には感謝の言葉が綴られていた。
 
 今、五十代の俺は、杖をつきながら娘とバージンロードを歩いている。彼女とはあれ以来二度と会うことはなかったが、彼女のおかげで新しい家庭を持ち、今の俺があることを忘れたことはない。


   * * * * * * * *


 女神が微笑みかけた。
「さあ、金の未来、銀の未来、あなたはどちらをお探しですか?」




作品名:金の未来・銀の未来 作家名:鏡湖